TakuoAoyama

正欲のTakuoAoyamaのネタバレレビュー・内容・結末

正欲(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

主題歌「呼吸のように/Vaundy」

登場人物5人の名前で括られた章構成。5人のバックグラウンドを描き切るには134分では少し短かったか。

桐生夏月演じた新垣結衣の死んだ目が印象的。ガッキーってこんな顔してたっけと思わせる程。また、一見普通の人に見える佐々木佳道演じた磯村勇斗も、脆くて今にも壊れてしまいそうな大学生の神戸八重子を演じた東野絢香も、触ったら怪我しそうな程に危うい大学生の諸橋大地を演じた佐藤寛太も、真っ当な道を歩み、正しい人、普通の人として比較対象のキーパーソンである検察官の寺井啓喜を演じた稲垣吾郎も俳優陣の演技が皆良かった。

「観る前の自分には戻れない」
主張の強いキャッチコピーが反芻する。

この世界には2種類の人間がいる。明日生きようと思う人と死にたいと思う人。

冒頭の佐々木佳道(磯村勇斗)のコップから溢れ出す水は、彼の性的嗜好の対象そのものである水そのものであると共に、明日にも死んでしまいたいという危険水域ぎりぎりというラインのメタファー。

「あっちゃいけない感情なんてこの世にはないから。」

こんな欲求も存在するんだと理解する第三者。この欲求は正常だと信じたい当事者。

正欲というタイトルは自己認識か他己認識かどちらの目線か分からないが、「流浪の月」でも描かれたペドフィリアに加え、水に欲求、興奮を感じる人々にフォーカスを当てるという中々稀有な作品。

個人的な考えだが、多様性を全て理解するなんて到底無理だし、別に自分と違う存在を気持ち悪いと思ったって良い。そもそも人によっては干渉しないでくれという感情もあるはず。

せめて存在を認識することというのは、最低限なレベルのようで、"そこまで"に留まることが実は一番の最適解かもしれない。


同じクラスに奇跡的に同じ思考の人物が居て、友人の結婚式で再会を果たし、それを機にやがて結婚し、不思議な共同生活を始め、彼等にとっての"普通な生活"が完成する。

こんなことで壊れないで欲しいと願う視聴者を他所に、事情聴取で呼ばれた妻は厚家羅漢と言う。

「彼に伝言をお願いできますか。」
「普通のことです。いなくならないからって。」

狭義には物語上では大事な妻は離婚調停中で別居中の寺井に対して、そして広義には多様性、ダイバーシティ、性的マイノリティ等、社会に蔓延る流行りの言葉を粗雑に扱う我々に向けたアイロニックなメッセージであろう。

ダンスサークルを辞めた大地と彼を助け出したい八重子の教室での感情的な会話も見所だし、息子の不登校への対応による寺井家の意見の食い違いも共感する部分があり、全編通して考えさせられた。
TakuoAoyama

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