骨折り損

正欲の骨折り損のレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.2
小説を映画化するってこういうことなのかなぁって最近の邦画を見てけっこう毎回思っている気がする。

ほとんど小説に書かれている事象をそのままなぞっていても、映画は小説と同じ読後感にはならない。うーん、改めて小説の映画化とはなんなのかを考えさせられた。

原作がかなり好きで、割と楽しみに観に行ったが、小説を読みながら自分の中で膨らんでいったこの世界への失望や疑問、そして自分と対峙する恐怖みたいなものを正直この映画には感じることができなかった。

それはやはり映画という媒体と、小説という媒体の違いを上手に活かしきれていないことにあると思う。小説は地の文を使って起こっている事柄の意味を描ける。対して映画はフレームの中に現象を映し出すことしかできない。泣いている人を映しても万人に悲しいと伝えることはできない。だからこそ映画には小説にはない遊び方があるはずだ。見ている人が何を思うか、それをコントロールできないからこそ、制作者と鑑賞者がお互いに歩み寄って感情を作り上げることができる。

なのに、この映画は原作の地の文以外(目に見える行動や会話)を映像として順番に追っているだけで、小説では地の文で補完されて初めて成立していたキャラクター達の葛藤が、あまり浮かび上がってこない。

あと『流浪の月』でも似たようなことを言ったが、マイノリティを描く時に、「恋愛感情か否か」の二者択一でしか人の行動原理を描けていないのは原作の意図を汲み取れている気がしない。目線の切り取り方、リアクションの演技など、キャラクターの心情の表し方に恋愛感情か否かの「否か」が一括りにされている印象を受けてしまった。そもそもそれを問題提起する話なのに。

この小説をこの規模とキャストで映画化してくれたこと自体が素晴らしいし、とても意義のあることだったと思う。しかしそんな機会を得た映画だったからこそ、多くを求めてしまった。
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