なお

正欲のなおのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.8
もともとノーマークだったけど、この日の夜の用事までに時間がちょうど良かったのとフォロワーの皆様の評判が良いので鑑賞。

原作は『何者』などを代表作に持つ朝井リョウ氏。
同名の原作は数々の文学賞を受賞、またはノミネートされ、2023年10月現在で発行部数は50万部を突破している。

✏️人生の通知表
人間のイヤ~な感情をじわり、じわりとほじくりえぐるヒューマンドラマ。

私事で恐縮ですが、先月30歳の誕生日を(独りで)迎えまして…
本作でも描かれるような「イイ歳して結婚しない人」すなわち「ちょっと人生のレールから外れちゃってる人」が主役を務める映画がぐさり、と心臓に突き刺さる年齢に差し掛かってきた。

そんなタイミングで本作を見て、タイトル「正欲」の意味を考えてみる。

人間の三大欲求のひとつ「性欲」とかかっているのはまず間違いない。
事実、夏月や大也が自室でマスターベーションに興じるような演出があったり、夏月と佳道がセックスの演習をするシーンがあったりと、人間の官能的な部分に訴えかけてくるシーンが多数あった。

もう一つの意味は文字通りそのままの「正欲」。
これは現代人に備わった「正しく在ろうとする欲」のことなのではないか、と思った。

正しく在ろうとすること、それは
「早くに結婚して家庭を持ち、子どもがいて───」という、大多数の人が考える「幸せ」をつかんでいる状態のこと。

運命に導かれた男女が出会ってセックスをして、子どもが生まれて。
たったそれだけのプロセスで親戚縁者はもちろん、知り合いや友人、会社の同僚や上司からも祝福される「幸せ」をなぜ享受しないのか。
それってもはや何かの「癖」なのではないか───。

人に知られたくないフェティシズム、性癖。
誰もが人に知られたくない「癖」を抱えて生きている。
自分にも、絶対に人に教えたくない、墓場まで持っていかなければならないと思う「癖」がそれなりにある。

本作は「他人に理解されない性癖を持つ人」と、これまた他人に理解されない「ふつうの幸せを手に入れていない人」をオーバーラップさせた、「理解されないという生きづらさを抱える人」に宛てられたメッセージなのだと感じた。

「なんで結婚しないの」
「なんで彼女作らないの」
自分が苦手な質問のひとつだ。
なんで、と聞かれても別に理由などない。
強いて言えば「面倒くさいから」だ。

本作を通して、自分には夏月の気持ちが痛いほどわかった気がした。
単に結婚してない、というだけでちょっと変わった人・問題がある人扱いされ、見えないプレッシャーを受ける。

夏月が務めていたイオンモールの寝具売り場で、"気を遣って"夏月に話しかけてきてたあの女性、自分なら無視だけに留まらず手が出てたかもしれない。

その一方で、「正しく在りたいという欲」もいっちょ前に持ち合わせてしまっているのがこれまた厄介。
自分は今完全な独り身だけれど、夏月のように「偽装結婚しませんか。世間体を保つために」なんて人が現れたら心揺らぐかもしれない。ていうか、話に乗るかもしれない。
なぜなら、正しく在りたいから。

人生って、人間って本当に面倒くさい。
理解されない、別に理解されなくたって構わないという自分がいる一方で、誰かの期待に応えたい、認められたいという自分もいる。

そんな二律背反な性質を持つ、自分というひとりの人間を改めて認識させられたような思いがした。

☑️まとめ
9割方自分語りなレビューになってしまったけれど、改めて自分のこれまでを、そしてこれからを見つめ直すことができるような、いい作品だった。
これからもっともっと、ぐさぐさと心に刺さるこういうジャンルの作品が増えていくんだろうな…

自分のFilmarks上の評価基準に無理やり当てはめてしまうと点数自体は☆4つ未満だけれど、本当は点数以上のスコアを持つ作品だと思います。
いつか原作の方も読んでみたいな。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★☆☆
📖物 語:★★★★★
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:97(47)
※カッコ内は劇場鑑賞数
なお

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