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正欲のmitzのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.5
朝井リョウ原作。本来の心の内を理解されない苦しみを抱えたマイノリティーの人々に焦点を当てた物語です。
多くの出来事が現代を描いていて、YouTuberを目指す不登校の子どもたち(とその親)や自身の容姿に自信の持てない若者、そしてSNS社会など多くのコンテンツが最終的に結び付く原作を限られた時間内に上手く収めている印象です。
それに対して「あれ?低予算作品?」と見紛うほど演出が弱く、またキャスティング層も薄く感じます。特に普遍的な価値観を持つマジョリティー側に属する2人の存在感。そのひとりである「神戸八重子」の持つ個人の感覚がその他大勢にも適合すると疑わず、相手を慮るつもりが意図せずとも蹂躙する最も厄介であり最も「一般的」な女。この女の性根の悪さ(≒ウザさ)を強く描くことで物語の輪郭が強調されるはずなのに、どこか美談に着地したところは残念。
それでもこの作品の軸である、特殊な嗜好を持つ人たちを身近に感じ、それでいて「多様性を認めよう!」のような吐き気のする陳腐なメッセージに重きを置いていないところはブレていません。
帯の「読む前の自分には戻れない」に偽りなく、読む/観る者の価値観を揺さぶる良作です。
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