うりた

正欲のうりたのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
4.1
自分の感情や考えを「正しいと認めて欲しい」「正しいとしたい欲」と書いて正欲。
本当は物事に正しいも正しくないもないはず。
今ある社会の「正しい」は社会という仕組みを作り上げるために誰かが決めたものなので。
しかし今作はそこで「秩序」にまで斬り込んでくるのが流石だと思った。
秩序はどんな人にも必要なものだと思われていて、それゆえ命を脅かすものは淘汰されても仕方ない、つまり「秩序を出されちゃあ仕方ないよね」となりがちだけど、秩序ですら明日を生きたい人たちが安心して暮らすためのものであってそうではない人もいるということ。
まだまだ自分も“普通”の呪いに縛られていると自覚した。

脚本も絶妙で、意見が相反する登場人物でも全員の言い分がわかるのが苦しい。
寺井が子どもの安全を心配をしてYouTubeに反対する気持ちはわかるし、だけど彼はもっと妻と子供に歩み寄るべきだった。それは夏月に対してもそう。
寺井が危険なのは物事を一面でしか見ないところだけど、私自身も映画観ながら「右近ぜったい怪しいじゃん!」って疑ってて、右近が寺井にコメント欄の危険性を示唆してくれたときに、あ、私の中にも決めつけが発生してたな…と痛いところを突かれた気分だった。

主題歌であるVaundyの『呼吸のように』すごい好きなんですけど、聴いてて思ったのは今の世の中「愛」に対してハードル上げすぎじゃね?と。
愛と聞くと家族愛とか恋愛とかその辺りがメインに上がってくるけど何も深くて・重くて・尊い感情だけが愛じゃない。
大事な局面でここぞとばかりにいうセリフ=「愛しています」みたいなイメージがあるからそうなってんのかな。
なんかもっと、愛を気軽にというか、身近にというか、与える側も受け取る側もそれこそ本当に「愛は呼吸」ぐらいに捉えるとなんかもっとこの世の中良くなるのかなって思いました。
まぁ、愛ってのも人間が決めた概念なんですけどね………。

役者陣めちゃくちゃ良かったです。
吾郎ちゃんの演技良かった!大学生ダンサーと女の子もすごかったな。

美味しそうな食べ物がたくさん出てくるのは「食欲」とかけてるんだろうけど、もしそれが「どんな人にも食欲はあるよ!それと同じでいろんな欲があるよ!」みたいな意味だとしたらそれはちょっと嫌だな…。
食欲がないことに苦しんでる人もいるのでそれはこの映画の主題に反してると思う。
私が本当の意図を汲み取れてないだけかもしれませんが…。
ただ私個人は観ててめちゃくちゃお腹が空きました。寿司!オムライス!カレー!
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