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正欲のすのレビュー・感想・評価

正欲(2023年製作の映画)
3.8
人間ってなんでこんなに難しいんだろな。
って思案してたら結局は理性とエゴがあるからなのかも、なんて割とあっさりした答えをこれまたあっさり導いてしまった。実際はそんな単純なものでもないのかもしれんが、わたしには本質はそこに尽きると思えてしまう。だってみんなが動物的で本能的であればこうはならない。誰も悩まないし、葛藤は生まれないし、傷つくこともない。なにせ生物学的に血を絶やさないことが最も優先されるのだから。むしろそれ以外に価値が見出されない世界なのだから。でも、人間の世界には、社会が、人の目が、建前が、法が、倫理があるから。欲求のままつき従えばわたしたちの世界は崩壊し、ゆくゆくは種全体としての命が危機に晒されるから。だから、望まれる道を外れた存在にとっては、こんなにも世界が息苦しく、抑圧されたものになってしまうのだろうな。誰とどう生きようが、自分の命をどう全うしようが、他人に迷惑さえかけなければ自由であるはずなのにね。自由であってほしいけどね。そうできないのは人間も一種の動物であることの性なのかもしれんなーーーー。

原作読んだときもそうだったけど、この作品は触れたあと身体と心に鈍くて弱い痛みが持続的に走り続けるよね。ほんとキツいしやめてほしい。でもたぶんその痛みは自分の視野の狭さと独り善がりな偽善とわかった気になってる勘違いを勘違いだと突きつけられることによる図星を貫かれた傷から生まれるものなのよね。認めざるを得ない。そして懺悔しても許されない。朝井リョウはそんな安易で手軽な内省では逃してくれんのだよなーーー。ドSか………。

どうやったらこんなのが書けるんだよというぶっ飛んだ発想力と、思ったとしてもなんとも言えず蓄積させ時間という名の下にやり過ごし徐々に溶かしていく感情たちを、一切取りこぼさず言葉にして突きつけることのできる言語化力。どちらにも脱帽するし、こんなにも苦しいのにその才能と熱を帯びた価値観に陶酔している自分がいる。なんでわたしこんな吐きそうになりながら読み進めてるん?これなんの修行???ってほぼ半泣きになりながら頁を捲り続けたその先に希望も正解も押しつけがましい正義があるわけでもないけれど、苦しさの中に残る(この本を手にとって良かった)と思わされる圧倒的読後感。それは朝井先生唯一のものです。

あかーーんほぼ読書感想文になってきたから話戻すけど、思ったよりずっと原作に忠実であったことが嬉しかったし、世界観もほんとうにそのままを映像化したようで良くも悪くもとことん重かった。ガッキーが可愛くないとは言いつつも端々に滲むスタイルの良さとパーツの美しさにどうしても惚れ惚れしちゃったが、えっ、こんなにも女優やったんかと度肝抜かれた。かっこいいね。ドラマに一瞬出てて良いなと思ってた東野絢香が苦手になり、一方で佐藤寛太の芝居に魅せられた映画でもある。前者は終始くどくて胃もたれ演技だったけど、佐藤寛太はその逆のナチュラルさで、想像を超える諸橋大也だった。むちゃくちゃそこにいた。震えたよほんと。だからこそ痺れる数々の台詞をカットしてほしくなかったという悔しさも残りますが、まあ良い役者さん見つけられたと思えば飲みこめるか。今後も追っていきたいな。

おっと、三行くらいでちゃちゃっと書くつもりがいつのまにかなんちゃって批評家レビューみたいになっちまった。いっけね。
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