プレコップ

ウィッシュのプレコップのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
3.5
ディズニースタジオ100周年の節目で、改めて「魔法」と「夢」をメインに描く。

鳥や木々や動物たちが歌い出す、それだけでディズニーの生み出した「魔法」を感じることができる。映画の中では、わかりやすかったり、逆に何度も見ないとわからないような過去作のオマージュが大量にあるが、それがなくともディズニーの王道マジックを存分に味わえるだけでその遺伝子がつながっていることを証明している。

長編1作目の「白雪姫」では、いきなり魔力の危なさや残酷さを描き、真実の愛がそれを救う。続く「ピノキオ」では「願い」や「夢」を描き、ここでも希望と残酷さを兼ね備えていた。その後もほとんどの作品でディズニーは魔法と夢を描いている。今作はこの2つが実体となって登場する、初期2作の子どものような作品である。

このテーマを表現するのにかかせない、ミュージカルのシーンは圧巻のクオリティだった。楽曲自体の力強さはもちろん、キャラクターの動きや映像の色彩が多幸感を与える。

また、こうした映画につきものの、「大人」の扱いも非常に上手くいっている。その上で、たとえば「となりのトトロ」では大人になると見えないトトロも、今作ではトトロが見える目を大人が取り返せる可能性を示唆しており、希望があってとてもよかった。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

一方で、今作には気になる点も多い。その中で個人的に特に気になったのは2点ある。
まず、ディズニーの過去作に比べて「アドベンチャー」の要素が欠けていること。アーシャの行動範囲はディズニー作品の中でもかなり狭い方で、見知らぬ世界を探求するワクワク感はあまり感じられないのが残念。また、キャラクターも途中からはほぼ固定され、新たな出会いによって受けるワクワク感もない。

そして、もう一つは背景のセル画とキャラクターや物体の3DCGの融合があまり上手くいっていない点。絵本の世界が舞台なので、背景をセル画にする意図はとても理解できる。しかし、たとえば、群衆や森林の映るシーンで手前がリアルな3Dなのに背景が奥行きのない2Dになっているのは、そこで生まれるチグハグ感がどうしても引っかかってしまう。結局、この空間配置に終盤まで慣れずに終わってしまった。そして、どっちも3Dか2Dに統一した方が見やすいという結論になってしまう。というか、全体にCGのクオリティが低いので、この場合は2Dの方がよかったのではと思う。ピクサーの短編「デイ&ナイト」はセル画と3DCGの融合が素晴らしかっただけに、もったいなさがある。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ただ、100周年という節目に過去と未来をつなぐ覚悟は感じられる。志の面ではとても高いものを持っている一作であるとは思う。

そして、吹替版のキャスティングもさすがのセンスの高さを感じられた。やはり、生田絵梨花の歌声はとても良い。
プレコップ

プレコップ