HAL8192

ウィッシュのHAL8192のレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
3.4
95分の凡庸なオマージュ作品。

ディズニー100周年をほとんど完璧に祝った短編を見た後に流れるのが、オマージュ全開の手垢のついた本編。

100周年でベストの短編を作ったが、映画は思いっきりベターな作品に終わってしまった。

お話自体が非常に凡庸で、せっかくの「星に願いを」というメッセージと歌を生かしきれていない。

願いという大切なものを、非常に大切に描きたいのは分かるが、それは具体的にどのように魅力的なのか? なぜ王に刃向かうほどのものなのか? 
という部分には、描写しきれていない。物語的に、主人公の願いを叶えるためではなく、100歳の祖父の願いを叶えるためという動機があまり飲み込みやすくはなかった。

またスターの役割自体は理解できるが、それでもスターの力にはなんらかの代償がないと物語として陳腐になってしまう。この描写では、王の堕落した魔法と同じで、対比にはならない。

例えば元ネタのピノキオでも願いを叶えるために、様々な代償を支払う。そこに葛藤や物語的な成長があるからこそ、納得が出来る。ただ本作では、魔法のスターが登場し、すべてを解決してしまう。
代償の伴わない魔法は、なんとも味気ない。

正直、まだヴィラン側の理屈の方が共感できた。願いを集めて、保護しているというのは、管理社会的なディストピアではあるが、国は豊かだし、国民はある程度納得しているように見える。

確かに国民は、王が願いを選別しているというのは、知られていないにしても、どのくらいのペースで叶えるのかというのは知っているはずだ。(この辺の設定は描写不足だった)

個人的にはある程度の大人になると、胸の内にあるまず叶わないだろう『望み』を忘れられる……もしかしたら叶うかもしれないという幻想に身を置くのは、ちょっと納得感してしまう。某変身ヒーローも言っていたが、「叶わない夢とは呪い」なんだ。

確かに途中禁断の書の力を手に入れてからは、間違った統治に移行して行くが、それでもヴィラン側の方が、それなりに言い分が納得いってしまうのは問題だ。

キャラクター的な意味では、低音ボイスで喋るヤギはキャラとして可愛らしいし、ギャグも邪魔にはならないが、物語的にはいてもいなくても、あまり関係がない。

城で働く七人の友人(七人の小人オマージュ)も正直、オマージュにするためのキャラ配置でしかなく、あまり意味が感じられないというのが本音だ。

もっとキャラは絞って、各個人の掘り下げに使って欲しかった。

ラストのある種の逆転も絵面としては悪くはないが、割とご都合主義的だ。
(こういう反乱を王様が恐れて、爺さんの夢を叶えなかった可能性もあるのだろうか?)

アニメの動きに関しても、いくつか見せ場はあったが、面白みのある演出は少なく、全体を通してそこまでのクオリティではなかった。

セルルックCGという手法自体が悪いわけではなく、最近公開された某蜘蛛さんや某亀さんの方が、明らかにこの映画よりもクオリティが高いのが問題だ。

見れない内容ではないが、このクオリティなら、家のTVで見れるディズニープラスがおすすめ! 
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