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ウィッシュのYAEPINのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
4.6
誰しも生きる上で夢を持つことが重要である、という明快かつ真っ直ぐなストーリーに、これでもかというほどディズニー・アニメーション作品のセルフオマージュが鏤められた、まさに100年の歴史を祝福するにふさわしい作品だった。
ただシンプルすぎるきらいもあり、ディズニーランドで観るショーのような映画とも言える。

夢、希望というテーマは、もはやイデオロギーもバックボーンも何もかも超越している。あまりにも多様化し、複雑化した世界では、この単純すぎる精神こそが胸を打つのだと感じた。
それはまさにディズニーが100年語り継いできたものであり、実際本作に出てくる「願い」の中にはディズニーの過去作そのものが含まれていた。

本作を飾る表題曲も星に願いをかける歌だが、人々の声が重なる時、自由意志や民主主義を讃えたアンセムにも聴こえた。
うっかり『レ・ミゼラブル』のミュージカルを観ているのかと思った。

100周年を祝うディズニーが基礎の基礎に帰った結果、『白雪姫』の頃から使われていた装飾文字と絵本が開く演出に始まり、水彩画のようなタッチで全編描いていたのも感慨深かった。
背景をペーパークラフトのように表現した『眠れる森の美女』を想起させる。

ヴィランもかつての作品のように強力かつ魅力的だったと思う。
マグニフィコ王は民を愛し、無用な絶望を味わせたくないという気持ちから「夢集め」を始めたのだろうが、いつしか権力と支配欲に溺れてしまう。
理性持った人物であることが分かるだけに、闇堕ちしてしまった悲しさも残る。
王妃との関係性も興味深かった。

こうしたヴィランが配置される一方で、主人公には共に闘う仲間が多く、対立軸が子どもにも分かりやすい。
彼らが織り成すコミカルでファンキーなやり取りは『クレヨンしんちゃん』を見ているようで楽しかった。

本編も素晴らしかったが、やはり『ワンス・アポン・イン・スタジオ』を劇場で観ることができて感無量だ。
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