故ラチェットスタンク

ウィッシュの故ラチェットスタンクのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
3.0
『Be Careful What You Wish for.』

 色々とNot for me…というかこの95分を「100周年の感謝&この先のお気持ち表明」的に受け取ってしまった。ある意味清々しいよ!

 だって過去作ネタをジョークに引っ張ってくるし、モチーフもリファレンスに依拠してしまってるし、「星に願いを」を本当にプロットに組み込んでしまっているし…。音楽全く詳しくない自分からしても曲があまりに現代っぽ過ぎるし、2D×3D映像のアドバンテージもイマイチ生きていかない。諸々がメタor現代的なのでファンタジー時代劇として観ようとしていた身としては面食らってしまった。

 一時が万事「アーシャとロサスを描き込もう!」というより「ディズニーのお祭りへいらっしゃい」に傾倒してしまっている気がして居心地が悪い。ドレッドで長髪のスレンダーなビジュアルとか明確に「平民出」である設定のフレッシュさ(平民出は普通に他にいたっけ)とか諸々の個性となるはずの要素が「100周年文脈」の中に埋没してしまっていて悲しい。「主役のことが目に入ってない」タイプの創作物として位置付けるしかなさそうだ。「17歳映画」としての位置付けをさせておくれー。カリカチュアのしすぎも相まって平淡さが強くなっている。

 諸々のカリカチュアし過ぎた弊害が悪役周りに乗っかりまくっている。馬脚を表すスピード感や力への極端な溺れぶり、制御欲の裏にあるはずの侵略への恐怖はどこか隅にやられ、挙句は結末のキャンセル。

 何より「願い」と「欲望」の表裏にあまりにも無自覚で、無邪気さをただ肯定してリスクにもそのリターンにも話が向かないのでそこはちょっとどうかと思ってしまった。虚構に何かを仮託しきっている怖さと、しかし虚構に信頼を置いてない印象を同時に汲み取った。この辺の止揚を上手く収める物語もある。自分を仮託していたものがその不安定さゆえに喪失しても、それでも無駄なんかじゃなかったと確信を持てる物語も。

-神様を見たことは、多分ないと思う。もし神様にも願い事があるとしたら、それは何に願えばいいのだろう。願いを胸に夜毎星空を仰ぎ見ても、流れ星はいつ落ちてくるか分からない。だから、"流れ星に願い事をすれば叶う"っていうのは、つまり叶わないってことでしょ?けれど、私の願いはきっと叶う。だって私は…。だってわたしは、この流れ星を待っていたのだから。ー

 絶対に叶わない願いであってもそれを持って生きることに意味はあるのか。意義はあるのか。価値はあるのか。多分そこに意味はない。でもそこで何かを見出してくれるのが、フィクションのひとつの役割だったんじゃないの、と思うのだけれど。自分たちのお気持ち表明だけに「願い」を利用しないでおくれよ。白々しー。

追伸:同時上映の『ワンス・アポン・ア・スタジオ』で今回は大丈夫かな、と思ったけれど、やはりハンス王子はキャンセルされてしまった。2回目だから大丈夫かな、と思ったけれど、やっぱりキャンセルされてしまった。