垂直落下式サミング

ウィッシュの垂直落下式サミングのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
4.0
ディズニープリンセスストーリーのような華々しさきらびやかさは控え目な気がしたが、いろんな動物が喋りだして歌い出すところが本当に素敵で、そこで歌われていることにも大いに共感できた。
みんなのなかに星との繋がりがあって、それを認識しましょうって歌。世界のなかにいる「わたし」という存在を肯定することで、同時に他者という存在を肯定することになり、つまりは世界そのものの存在を認めることだって、そういうことを歌ってるんだと思った。
わたし、あなた、世界、それら相互の間にはさまたげがあって、あらゆるものが個々別々であるということは、すべてのものが全体的関連においてのみ存在しているということ。つまり、存在は相互関連性そのもの。人も動物も星屑もおなじ。一は全、全は一。
悪者は願いを奪う魔法使いの王様。コイツが隠匿している真実を知った主人公は、欺瞞は許せないとバイタリティーを発揮し、急激なハンドルさばきで敵対していくことになる。確かに、若者には受け入れがたいかもしれない。とは言え、人は管理されてはじめてマトモになれる気がする。国家転覆系をみると、僕のうちに秘めた危険思想が暴れだしそうになる。
決着の付け方は、もう少し納得がいくものにしてほしかったなー。一応は悲惨なバックストーリーを持つゆえに暴走してしまったということになってる悪役への仕打ちもひどいけど、そのあとのハッピーエンド風のラストが特にやべえと思うんだけど。空を飛びたい人は、なんか機械を発明をしたい人と組ませて、折衷案で協力してお互いの夢の成就を目指しましょう。っておいおい。何者にもおかされないのが、その人の夢であり願いだってはなしじゃなかったのかよ。ファンタジーの願望を、強引なかたちでリアリズムに結びつけるのって、むしろこちらの方が暴力的じゃない?こんなんなら、前の管理体制の方がまだマシですわ。キレイなドレスを作るのだって、王国を守る騎士だって、それはそれでステキな願いだって、肯定したままにしてほしかった。
僕の考える大人の「願い」ってもんは、もうすこし複雑で強度のあるものだから、子供の頃からの純真無垢な願いこそがもっとも価値があるという思想は青臭くて子供向けであるな、と。
中国武術における最高位の拳士の称号「海王」の名を得るための難業のなかには、打岩という鍛練がある。己の五体のみを道具とし、素手で岩石の塊を打ちつけることで、ながい時間かけて岩の角を砕き割り、丸いかたちに整えていくというものだ。その仕上がりが球に近ければ近いほど、その者の技量の高さをあわらすとされる。
人の人生も、打岩と同じことだと思う。僕らの中にあるボーリング玉くらいの大きさだった願いは、ずっと永遠にきれいなままではいられないんだよな。いつしか、擦り傷だらけでバッキバキにひび割れて、欠けて、砕けて、剥がれ落ちて、輝きを失い欠片ほどの大きさになったものを、切創も辞さずに指でつまみ上げ、ほんのささやかなビー玉くらいのサイズに削っていく作業のことを、人は希望と呼ぶことにしたんだと、そう認識しています。
それに、もっとも大切な願いの力だけで生きてる人なんていやしない。人の願望も、愛も、夢も、それらは複雑怪奇であって、あんな球体ごときに閉じ込められるもんじゃない。むしろ、人は願いなんかなくたって生きられる。中身がないならないなりの生き甲斐がある。役に立たなくても価値がある。無垢じゃなくても美しい。若いころよりも枯れてからの願いが、素晴らしいことだってあるでしょう。ヒップホップイズアライブだよバカやろう。
一緒にみたディズニーと福山雅治のガチ勢の彼女がいうことには、とても素敵な映画で嬉しかったけど、スターがあんまよくみえなかったらしい。もう超かわいかったのに、体の色と目の色が似てて表情がわかりにくいし、そもそもちっこすぎて動きがよく見えないのがご不満とのことでした。ああいったカワイイものは、ピカチュウくらいのサイズ感でお願いします。見えないので!だそうです。次は見せてあげてください。


【再鑑賞】
中盤の歌は、リベラリズムの主流な価値観とは別の角度から一石投じているように感じたし、ここから主人公が過激派活動家みたいに友達を先導して国家転覆まで行くのはやり過ぎだったしで、分断に疲弊したアメリカの抱える答えのでない問題に、なんとか答えをみつけようと揺れるクリエイターの苦心がみてとれるという意味では、興味深い作品だったと思います。
鑑賞した直後は、僕自身はあんましピンときてなかったのですけど、レストランでご飯食べながら話してたら、ああ、これ移民国家(アメリカ)のはなしなんだって気づいて、いろいろ腑に落ちて、モヤモヤを明るく晴らしてくれました。僕のぼーっとした感性じゃあ、入り口すらたどり着けなかったと思う。
「願い」にかぎらず、大事なもの・価値のあるものって、自分のなかにはないと思う。他人からもらうものだと思います。