よーだ育休中

ウィッシュのよーだ育休中のネタバレレビュー・内容・結末

ウィッシュ(2023年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

イベリア半島に浮かぶロサス王国。ここに暮らす国民たちは、偉大な魔法使いである国王マグニフィコが、いつの日か自分の願いを叶えてくれると信じて其の願いを差し出していた。少女アーシャは王の弟子になるための面接を受けた際に《決して叶えられることの無い願い》がある事を知り、王の考え方に疑問を抱く。


◆ この願い、今日よりもっと輝く

ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年を記念してウォルト・ディズニー・アニメーション・スタジオによって製作された長編アニメーション作品。メモリアルイヤーを飾る今作には世界的な大ヒットを記録した『アナと雪の女王』を手掛けたChris BuckとJennifer Michelle Leeが監督・脚本にそれぞれ抜擢されています。


〝星に願いをー〟


アメリカ映画主題歌百選にも選ばれ、ディズニーを代表する楽曲として世界中で広く親しまれてきたこの曲は、いつしかディズニーを象徴する普遍的なテーマになっていると感じます。

When you wish upon a star,
Your dreams come true.

星に願う時、願いは叶う。

この楽曲は1940年に公開されたディズニー長編アニメ作品『ピノキオ』の主題歌であり、同年のアカデミー歌曲賞にも輝いた楽曲ですが、今やディズニーのDNAを構成する大切なファクターたるものと確信しています。今作『ウィッシュ』は此の楽曲をベースに、過去の名作たちのエッセンスを組み込みながら現代風に再構築した作品であるように感じました。


◆ この願い、諦めることは無い

今作と同時上映されていた『ワンス・アポン・ア・スタジオ』にはディズニー100年の歴史とリスペクトが凝縮されていたように感じましたが、今作においてもそれは同様。過去の名作へのセルフオマージュというイースターエッグが多く隠されています。

︎︎︎︎︎︎☑︎ ネズミの手助け(シンデレラ)
︎︎︎︎︎︎☑︎ 鏡のモチーフ(白雪姫)
︎︎︎︎︎︎☑︎ 七人の仲間たち(七人の小人)
︎︎︎︎︎︎☑︎ 邪悪な茨の魔法(眠れる森の美女)
︎︎︎︎︎︎☑︎ ナルシストなヴィラン(美女と野獣)
︎︎︎︎︎︎☑︎ 空を飛びたい国民(ピーターパン)
︎︎︎︎︎︎☑︎ 音楽で心を動かしたい(リメンバー・ミー)

コメディリリーフを担当するヤギのバレンティノはそのルックスに反して渋いイケボ。ギャップで笑いを誘うキャラでしたが、同時間帯に物語に投入されたキーキャラクターである《スター》は敢えて〝しゃべらせない〟という発想に。身振りや表情を通した表現はアニメーションの原点。まさにディズニー100周年記念を飾る作品に相応しいアイデアでした。

この願い星スターが、不思議な力で無条件に願いを叶えてくれる訳では無いというのもポイント。過去のディズニー作品と同様に願いは叶えてもらうものではなく叶えるものというスタンス。逆境の中でも励ますように背中を押してくれるキャラクターでした。

とはいえ、魔法の力でハッピーエンドを迎える結末を期待してしまっていたのは事実。今作のヴィランであるマグニフィコは、自身の悲しい過去があるが故に《悲劇を生み出す欲望=人間の強い願い》を取り上げて平和な王国を築き上げました。叶える願いの選別に強烈なバイアスが掛かっていたことは否めず、禁書に手を出してしまったことは流石にやり過ぎですが、彼は彼なりに必死で努力をして魔法を会得し、其の願いをロサス王国という形で実現させたのだと見るべきではないかと思うのです。

王の魂は禁書に毒されて最早手遅れー。

そこをスターの魔法で浄化させて、国王の頑なだった心を解すようなハッピーエンドを期待してしまいました。国王様の末路が不憫でなりません。


◆ この願い、この願い、この願い、
ー諦めることは無い!

今回は吹替鑑賞でしたが、ヒロインを演じた生田絵梨花とヴィランを演じた福山雅治の歌唱力が抜群に光っていました。100周年を記念する長編ミュージカルアニメーションに相応しいキャスティングであったと感じます。

今作を彩る楽曲の数々も素晴らしく、冒頭で披露されたアップテンポな楽曲【ようこそ!ロサス王国へ(Welcome to Rosas)】からグイッと引き込まれました。

〝夢と現実が出会う場所〟
〝あなたの夢が叶う魔法の国〟

ロサス王国を讃える歌詞はまさにディズニーそのものを示しているかのようです。


今作の顔とも言える楽曲【ウィッシュ(This Wish)】は、名曲【Let It Go】や【Part of Your World】のように苦境に立たされたヒロインが心のままに歌い上げるエモーショナルな一曲。徐々に盛り上がりをみせるコーラス部分は圧巻です。ミュージカル俳優である生田絵梨花の表現力と透明感が特に素晴らしく、普段は字幕派の僕ですが吹替で聞いて良かったとさえ思いました。(後でちゃんとAriana De Bose版も聞きました。)


〝どんな未来が待っていようと、
二度と手放したりしない。〟

壮大なリプライズも鳥肌モノです。ディズニー作品においてリプライズ楽曲は、盛り上げてから後半パートに向かうようにラストの少し前の部分で流れてくることが多かったように感じていましたが、今作ではラストシーンで鳴らすというのが心憎い。

【This Wish】のコーラスパートのメロディラインから始まり、元の曲と同様にじわじわと盛り上がっていきます。その振り幅はリプライズの方が遥かに大きく、作品のクライマックスに合わせて鑑賞者の心をガンガン揺さぶってきます。


今作のエンディングロールで流れる【A Wish Worth Making】もしっとり余韻に浸らせてくれる素敵な曲でした。実写版『美女と野獣』のエンディング曲【How Does A Moment Last Forever】を彷彿とさせる様な優しいメロディ。【This Wish】を手掛けたJulia Michaelsご本人の歌唱というのも感慨深いものがありました。


ストーリーラインがありがちであった事は否定しませんが、散りばめられたイースターエッグが楽しく、楽曲が強く胸を打つ、メモリアルイヤーに相応しいミュージカルアニメーション作品だったと思います。