らんら

ウィッシュのらんらのレビュー・感想・評価

ウィッシュ(2023年製作の映画)
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「一人の独裁者を悪にすることで民は一丸となる。ならば、その悪を排除した後の世界はー?」

この作品は、
超高知能地球外生命体「スター」が地球人達を支配下に置くため、手始めにロサス王国で1人のうら若き少女を旗印に革命を起こさせ ゆくゆくは傀儡とし地球支配を進める侵略の物語。

にしか見えなかったんですけど、これほんとにディズニーですか?

これがもしソヴィエトのプロパガンダ映画だったとしたら、非常に良い出来です。

かつてのディズニーは、皆が見たいもの、夢に見たものをアニメーションにして私達に見せてくれました。心をときめかせてくれました。

でも、この作品はディズニーが一方的に私達に「見せたい」ものを作っているように感じます。初手から全く心がときめかない。

そもそも、制作側も心からこの作品を作りたいと思って作っているように見えない。
義務感しか感じないです。


作品のメッセージ性を抜きにしたとしても、アナログ風2Dルックの3DCGは悪手な気がします。

恐らく100周年ということで初期ディズニーやディズニー・ルネサンス以前の作画を意識したのでしょうが、相性が悪い。

昨今のディズニーの魅力である美しい3DCGを素直に見せてくれればいいのに、アナログ風のテクスチャと3DCGの質感がミスマッチすぎて画が地味に見えるし華やかさがない。

人物は立体的なのに背景は平面的に見えて違和感を感じます。

最近のディズニーアニメは暗黒期に突入していますが、それでもミュージカルと映像だけは素晴らしかった。なのにどうして唯一の魅力を己で潰す……

メインの曲「ウィッシュ」とマグニフィコ王の曲は好きです。

しかし一番初めのミュージカルシーンである「ようこそ!ロサス王国へ」が微妙すぎる。

物語の導入で大切なシーンなのに、曲は過去作の「ふしぎなマドリガル家」の下位互換。
画はラプンツェルの「王国でダンス」の下位互換。 オマージュにしたって、全ての要素が過去作の下位互換です。

中途半端にアナログ風にしてるので画面の彩度が低いのも勿体ない

物語の展開自体も地味で惹き付ける要素やどんでん返しもないから、どのシーンが面白かったかと聞かれたら答えに困る作品です。

スターという地球外生命体の設定は中々面白かったですが。
人類以外の動植物にも人間と同等の知能と言語能力を与えて彼は一体何を引き起こす気なのか。キノコと木が喋り出したシーンではあまりの恐ろしさに悪寒が走りました。

「スター」 の存在が謎に包まれているため、怪しさしか感じない。
これはスターのキャラデザも悪いと思う。1人だけゲームからやって来たかのような、世界観が明らかに違う無機質な雰囲気……

こいつがあまりにもチートなので、主人公に与えられる困難も代わりにこいつ1人で簡単に解決します。
それがこの映画のつまらなさを増長させているのですが。


キャラクターの名前は、主人公アーシャとマグニフィコ王とスターしか覚えられないです。それくらい他のキャラは薄いので。


ヴィランである「マグニフィコ王」のキャラデザは凄く魅力的でした。
吹き替え声優の福山雅治もかなりハマっていて凄く惹かれるし良いキャラです。

ラストの彼の扱いは最悪でしたが。

これが日本のアニメなら、
王妃はアーシャたち次世代の若者らに国を託し、全ての権力を手放してマグニフィコと共に余生を過ごす とか、
王が過去と向き合いトラウマやしがらみを克服して善き王となり立憲君主制に切り替え新たな国政を始めるとか、してたと思います。

これはアナ雪の時もそうでしたが、何せ「悪役」に救いがない。
彼らはなるべくしてそうなったのか?何故道を踏み外したのか?そこまで踏み込めない。
対症療法しかしない。

結局、分かりやすい「悪」を作ってその悪を成敗する勧善懲悪しか描けないのか…とガッカリしてしまいました。
皮肉にも、その点だけはディズニーって昔から変わらないんですよね。


「みんな幸せに暮らしました」
なんてシニカル。

しかもラストの展開、これってスターがアーシャを新たなマグニフィコ王に仕立てあげた風にしか見えない。
哺乳類達に「平等」を与えることで地球の食物連鎖と循環を崩壊させる目論見なのか…


これが100周年のアニメなのかと思うと悔やまれます。

それでも、昔からディズニーを観て育った人間なのでこれからのディズニーアニメーションに期待してます。
らんら

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