じゅ

戦場記者のじゅのネタバレレビュー・内容・結末

戦場記者(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

あまりにも鮮烈。これがここ1~2年での同じ地球上での出来事だとか、いやニュースとか話で聞くには聞くけど実際映像で見ると凄まじいな。

TBSの中東支局員はこの須賀川拓支局長1人だけなのか。あまりにも脆い体制だなとは思うけど、紛争地域に命懸けで人を送り込むなんてそう簡単にできることじゃないからいろいろ難しい状況なんだろうな。


2021年、イスラエルとの戦火の犠牲を被るパレスチナのガザ地区他、米軍撤退後タリバン復権のアフガニスタン。2022年、ロシアに戦争を仕掛けられたウクライナ。各紛争地域で暮らす民間人の生声を聞き、軍や政府の責任者に正義を問う。


ガザではハマスを狙ったイスラエル軍のとある攻撃で民間人10名が亡くなったと。妻と4人の息子を一瞬にして失った男の悲痛と、何百名もの負傷者の治療に奔走した医師の告白が映し出された。町には崩れた集合住宅に直径20mもあろうかというクレーター。
イスラエル軍広報部長によれば通常は攻撃前に警告を流して民間人を避難させるとのことだが、市民の証言によればその日は警告がなかったという。イスラエル軍が言うには、標的を狙うのに急を要する場合無警告で攻撃に出るタイムクリティカルターゲットというものもあるとのこと。
ハマスもイスラエルへの攻撃を続け、イスラエル軍のアイアンドームがミサイルを迎撃する光景が日常化している。ハマスがイスラエルに向けるミサイルに誘導装置はなく、民間人を巻き込むリスクは尚のこと高い。ハマスの広報担当は、イスラエル軍が攻撃を止めればこちらも止めると語る。ハマスからのミサイルが無差別攻撃になっていることについては、イスラエルがパレスチナへの輸入路を閉ざしているため誘導装置を付けられず仕方ないと。
イスラエル軍が一方的に悪と見做されているかというと、ガザ地区内部にもハマスを憎む声もあるという。カメラが写す限りでは、民間人が抱くのは敵国への敵対意識というより戦争を続ける軍や武装組織や政府高官への憎しみというのが主だった。

アイアンドームって、話には聞いたことあったけど初めて見た。撃ち上げられた迎撃弾がものすごい軌道を描いてミサイルを空中で爆発させてた。日によっては爆発で広がった白煙が10個以上とか空に残ってたことも。ちなみに、凄まじい精度だったけど、今相手にしてるのが無誘導弾だからだったりするんだろうか。まっすぐしか飛ばないから落としやすい的な。
イスラエル軍の広報の人、言ってることやばかったな。巻き添えを防ぐよう努力してるってのはまあわかったけど、民間人で死人が出た話をしてんのに「怪我人が出る場合もある」とか話を小さくしようとする姿勢。無警告だったとの証言については、タイムクリティカルターゲットだった「可能性がある」と。そういう軍事作戦もあるってのはわかったけど、あの日の攻撃対象がそのなんとかターゲットに該当していたか否かはノーコメントなんだ。情報を外に出したくないのか、はたまた知らない(広報部には知らされてない)のか。
ハマスの広報の人もやばかったな。誘導装置なしだから必然的に無差別攻撃になるのはイスラエルのせいってか。まあ尊厳とか独立のために戦うというハマスの立場からすれば至極真っ当なのかもしれんが、なんだかなあ。あと「我々にもテルアビブの本部を攻撃する権利がある」みたいなこと言ってなかったっけ。攻撃する権利て、まさに戦火の国の当事者からはインパクトの強い言葉が当たり前のように出てくるな。
後に須賀川さんが「もう当事者じゃどうにもできない」みたいなコメントを語ってたのも印象的だった。もう長いこと常日頃から武力のそばにいる当事者だからこそ、武力以外の道を見ることが不可能になってるのか、ってかんじ。
息子4人と妻を亡くしたお父さんは、息子らが作った祭日の飾り付けをずっとそのまま残してるってのがもういたたまれん。その飾りは息子たちが確かに存在した証だけど、同時に家族を奪った攻撃の凄惨な記憶でもあるのよな。お父さんの時間はもうその日で止まったままなのか。末っ子だけは生き残ったからやっと生きてるかんじが危なっかしい。
医師は「狙うなら軍服の人間を狙え」と憤っていた。あいつらが勝手にやってる戦争の巻き添えをくらってるんだ!ってかんじなんだな。てか作中でガザは世界一人口密度が高いって言われてたっけか。そんなところでこの医師に何かあったら救命救急が詰むんじゃないか。


アフガニスタンではタリバン政府により女性から職や教育が取り上げられ、デモが発生しては銃弾で鎮圧してを繰り返していた。西欧諸国はタリバンの暫定政権を国家として認めず経済制裁を続けており、国民の貧困が深刻化していた。一方で政府高官は女性も雇い活躍の機会を与えていると語る。
とある橋の上には強烈な異臭が漂い、道ゆく地元民も鼻を覆って歩いていた。下を流れる川は下水のように汚れ、ゴミを集めて日銭を稼ぐ者が行き来し、橋の真下の空間は麻薬中毒者が隙間なく鮨詰めになっていた。質の悪い薬に侵され人々は無気力に座り込み、死者と生者の区別もつかないほどだった。また、それほどまでその空間では人の生き死にに無頓着だった。経済制裁で世界から見放されたアフガニスタンで、この場所は特に"地獄"と現地人に形容されていた。アフガニスタンにおいて麻薬はハラムである。しかし通りかかる軍関係者も見て見ぬふりをするほど手のつけられない状況であり、政府も放置する他なかった。

初っ端から緊迫感すごかった。爆竹の破裂音が銃声に変わってさらに爆発音まで。車とか周りにそれしかなかったんかってかんじの小さい遮蔽物の後ろに隠れてやり過ごすとか運ゲが過ぎる。
インタビューに応えた広報の人、なんて言ってたかよく覚えてないや。ぱっとしねえなって思いながら聞いてた気がする。やっぱ職業柄、長尺で何も言わないスキルが育ってくんだろうか。女性職員も雇ってますとか麻薬中毒者は83の病院とどうのこうのとか言いましても、デモもヤク中も何も止められてないもんな。どこに責任があると思いますかって聞かれてなんて言ってたっけまじで。とりあえず努力している一面もあるって主張はわかった。
橋の下はあんまりにも強烈すぎた。まじで何あれ?地獄すぎる。密入国のコンテナくらい人詰まっててしかもみんな薬打ってるのか。どの人が生きててどの人が死んでるか分からないとか、そりゃこの世の誰もが目を背けるて。ただ動く気力もなさそうな人たちが座ったり寝転がってたりするだけなのに、須賀川さんが足を踏み入れてくの妙に怖かったわ。まるで取って食われるかのような雰囲気を感じるんよ。そんなことまずないだろうに。ただ薬が悪いだけなのに。


ウクライナでは2022年2月にロシアによる攻撃が始まったことはまだ記憶に新しい。取材班一行も防具、救命キット、通信機器、GPS、取材道具等々を急いで揃えて現地へ向かった。
砲撃で破壊されて瓦礫が散乱したホテルに、精神病棟の敷地に空けられたクレーター。爆発の跡に見られる土の白く変色した部分は、爆発の瞬間的な高熱で土に含まれる水分が瞬時に蒸発したためにできたという。道に空いた無数の穴は、ロシア軍がクレーター爆弾を使用していることを示唆していた。実際、民家の屋根から寝室に突っ込んだクラスター爆弾の親爆弾が発見された。クラスター爆弾はオスロ条約で禁じられているが、ロシアやウクライナは批准していない。偶然自転車で通りがかった男性が悲痛な声を上げる。「なぜ兄弟のロシアがこんなことを。」
一行は線量計を手に車でチョルノービリへ。森の木々が大量の放射線を浴びて赤く枯れたことに由来する"赤い森"を通過し、原発へ到着した。道中にはロシア軍が使用した家屋があったが、放射線を浴びた木々を埋め立てた地をロシア軍が掘り返して塹壕を作ったその足で踏み入れたため放射能汚染の危険がある箇所もあった。ブービートラップの危険もあり、ウクライナ軍が撤去したものの全てを取り除いた確証はないため、家屋内での行動は制限された。原発にはロシア軍が使用する土嚢が積まれた箇所が散見された。彼らが占拠していた跡が窺える。

自転車のおっちゃんのインパクトはすげえ強かった。長年"兄弟"と思ってきた隣国が急に銃口を向けてきやがったわけだ。その心中たるや想像もつかん。
買い物袋をぶら下げて崩れた町を歩く人もいた。生活の中に唐突に戦争が入り込んでくるってどんな感覚なんだろうか。せめて先のガザみたいなことにはならんといいが。
ロシアの言い分としてはウクライナの非ナチ化のためとのことだけど、「非ナチ化」って何をすることなの?民間人の居住地域を狙う必要があることなんだろうか。そこに軍事拠点があったとでも言うのか。それにしても見境ないように見えたが。
赤い森の件もいかつかったな。露軍が塹壕掘ったとかどうとか言われてたけど、空撮の映像では確かにがっつり広く深く掘られてる。軍の偉いさんとか政府の高官が被曝の危険とか訴えてやめさせることできなかったんだろうか。てか兵士の中にも被曝の危険性を知ってて掘らざるを得なかった人が少なからずいただろうなと想像する。ロシアの兵のいくらかが被爆して健康被害を受けたみたいな話は噂程度に聞くし作中でも言及されてた。真偽のほどはどうあれ、少なくともその危険性はあるような土地であれこれやらされるとか、ロシア兵からしてもたまったもんじゃねえよな。


須賀川さんは取材を続けることについて偽善かもしれんみたいなこと言ってたか。
やらない善よりやる偽善の方がいいだろみたいなことネットで聞いたことある。なんかの台詞っぽかったけど、内容自体は全くその通りだと思う。自分で偽善と思おうが胸張って発信していただければと思う。
開き直ってもらったとおりなのよな。でもやんないことにはしゃーないでしょ、っていう。

てかとにかく須賀川さん死なんでくれよ。
じゅ

じゅ