ゆかちん

西部戦線異状なしのゆかちんのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
3.3
観たら辛くて沈み込みそうやな〜と思って気になりつつ放置。
でも、アカデミー賞ノミネートやし、昔の小説や映画でこのタイトルは知ってたし…やっぱ今観ておかないと!ってことで観ることに。


…やはり辛い。。

グロ描写が酷いかと思ってたけど、そんなに酷くはなかった。や、勿論、なんて残酷な…てのがわかるくらいの描写ではあったけど、殊更強調はしてなくて。
でも、呆気なく死んでいく兵士たちが悲しかった。

合間に挟まる美しい自然がまた強烈な印象を引き立てる。
音もなかなか効果的。

冒頭の若い兵士。彼はこの作品のメインの人物では無いけど、彼の存在が後に効いてきて印象的。
彼から、まるで輪廻転生かのように(別人だし生まれ変わりでは無いのだけど)繰り返される若い兵士たちの犠牲。

強烈な反戦映画だなぁ…と。
特にラストの展開に、ガクッときた。

1929年の同名小説を1930年にアメリカ映画で製作。これで有名になったと。
でも、今作は、ドイツも製作に入り、ドイツ語で作られている。
ドイツ人が作るからこそ意味があるし、また、今まさに侵略戦争が行われている2022年発表だからこそ響くものがありました。



第1次世界大戦下のヨーロッパ。
ドイツ軍に志願した17歳のパウルや仲間たちは、西部戦線で戦う部隊に配属される。
最初は祖国のために戦おうと強い志を抱いていたパウルたちだったが、凄惨な戦場を目の当たりにしーーー。



今作は、パウルたちの戦場現場だけでなく、
・パウルたちを指揮する(が、自分はお屋敷で豪華な食事を食べたりして優雅に過ごしている)将軍
・ダニエル・ブリュール演じるマティアス・エルツベルガーたちの休戦交渉
…なども描き、並行して進んでいく。

間に挟まれる将軍が憎らしい!
そして、ドイツ国内でも必死に戦争を止めようと動いていた人がいたんだと。
優雅な場所にいつつ、この間に多くの兵士の命が奪われることに悲しみ、1分1秒でも早く止めようとするエルツベルガーをダニエル・ブリュールが好演。
MCUのジモで知ったスペイン生まれドイツ人の俳優。
アメリカ映画では悪役も多いけど、こういう役もいいな。彼は製作総指揮の中の1人でもあるらしい。

エルツベルガーが放つ、
「つまらないプライドを捨ててくれ」
「名誉(の戦死)?息子は惨めに戦死した。
我々が話してる間にも兵士は死んでる。」
この言葉に集約されているなぁという今作。

その瞬間、戦場に場面が変わるのも良かった。

パウルたちは学校で戦争に行くことの素晴らしさ、ドイツが勝っていると教えられ、それを信じ、意気揚々と参加するけど現実は違う。
中でも、今は個ではなく全体が大事だと言う。チェスと同じだと。全体のために個は駒に過ぎないと。
日本もそうだったけど、プロパガンダは恐ろしい。
個を大事にしすぎて、他の個を侵害して全体が崩壊し、結局かえって個が滅ぶのはどうかと思うけど、全体を大事にし過ぎて個を雑にするのは、なんのための全体なんだ?て思う。

4人一緒だと言った仲間が1人、また1人と無惨に死んでいく。
昨日まで一緒に笑い合っていたのに。
投降しようとしたけど相手兵に焼かれる最期の子は可哀想だった。

また、増援で来るはずだった兵士たち60人が毒ガスで全滅してるのを目の当たりにした、パウルと仲良くなった先輩兵士カットの「ドイツ人が消えてしまう」というセリフも印象的。
つまらんプライドで戦争するジジイたちのせいで、ドイツの未来を作る若者たちが死んでいく。それはドイツの未来が危ういということがわからんのだろうか。

また、パウルも他人を殺める。
殺さないと殺される仕方ない状況とはいえ、辛いよな〜。。

中でも、戦場真っ只中でパウルが無人地帯のクレーターに落ち、バレないように隠れていたところ、同じように落ちてきたフランス兵を見て、思わず無我夢中で刺したんだけど、彼が死んでいくのを見て後悔し、悪かったと許しを乞い出すところが印象的。言葉が違うから彼に伝わったかはわからないけど…。
止血しようと胸元を触ると彼が所持していた家族の写真を見つけ、たまらなく後悔し、奥さんに必ず…と死んだ彼に抱きつくのが悲しくて。。
そこから周りは退却し終えて静かになり、鳥の鳴き声が聞こえるのがまた虚しかった。


しかし、停戦協定が結ばれるとなり、ようやく戦争終わるのかと思ったら、まだ終了まで1時間近くある。
…そこからのやるせ無さがエグかった。

エルツベルガーは勝ち負けよりも一刻も早く戦争を止め、1人でも多くの兵士たちの命を助けようとした。将軍たちの尻拭いをしているんだと。

それに反して将軍は、ドイツの強い頃への憧れを捨てきれず、休戦の時間までは戦争が出来るからと、その時間フランス軍に突っ込めと指示。
そこでフランス軍を倒せば英雄だと言う。

ここのシーンで、このクソジジイは何をぬかしてんねん!💢となった。
それならあなた1人でフランス軍に突撃したらどうですかね?て。
もちろん、反対する兵士もいたけど、その人たちは捕まってすぐ射殺。
おいクソジジイ、人の命をなんだと思ってるんだ。

ラストのパウルの絶望感の眼。
彼は何を思って闘っていたのか。
もしくは虚無だったのか。

もうすぐ帰れると思ってたのに、若い仲間兵士を助けて相手と揉み合いに。
その相手とは向い合うも、パウルも相手のフランス兵士も躊躇する。
きっと、「敵」というより、「人」と対峙したからだろう。
そのまま助かってくれと願ったのも虚しく、パウルは他の兵士に刺され、その瞬間、11時になり休戦…撤退…。
あと5分耐えていれば…。

虚しい…。
絶望というか、やるせないというか、虚しいとはこのことかという。

彼が死にそうになりながら呆然と外に出て静かになった空を見上げていたのが印象的。

パウルに助けてもらった若い兵士がパウルの死体を見つけてショックを受け、パウルがつけていた、彼の亡くなった仲間の形見であるスカーフを取り、自分に巻くところで終わる。
これがまた輪廻転生のようで効いていた。


第二次世界大戦に行った親戚は、戦場の話をしなかったらしい。
後世のために、歴史の証人として語ってほしいところはあるけど、こういう映画見てると、戦場に行った人たちで語りたくないという人の気持ちもわかる気がするな。
仲間が目の前で殺されるし、自分も誰かを殺めたかもしれない…その誰かにも仲間や家族がいたかもしれない…て思うと。


この映画の製作が発表されたのは2020年みたい。
その時は、まさか発表時、戦争がタイムリーな世界になってるなんて思ってただろうか。

うーん。

「つまらないプライドを捨ててくれ」
「我々が話しているうちに兵士たちが死んでいる」
…というのをロシアのプーチンはじめ、戦争始めた人たちに言うてやりたい。
ロシアは強いという過去の栄光にすがりすぎ。ヒトラー倒した栄光にすがりついてるくせに、自分がヒトラーになっているのがわからないのか。
自分らは優雅に暮らしてね。

でも、ウクライナに言えるかな?
犠牲を減らすために、ロシアに降参するべき、と。
うーん。。。
でも、降参したら、益々ロシアは更に侵略してきそうやし。そうなると、ウクライナの未来として良いのだろうか?そうなると、これからのウクライナ人たちが苦労することになる。
うーん。。。ここは難しいな。


戦争は、一部の権力者がはじめ、多くの「普通の人」たちが犠牲になる。
虚しい。
辞めてほしい。


「西部戦線異状なし」
その裏で、何百万という兵士の命が失われていた。
皮肉も効いたタイトル含めて、反戦映画として完璧な作品だなと思いました。
ゆかちん

ゆかちん