おなべ

西部戦線異状なしのおなべのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
3.8
◉「西部戦線異状なし、◯◯◯◯──。」

◉第95回アカデミー賞にて作品賞を含む9部門にノミネートした作品。

◉第一次世界大戦の西部戦線。親の反対を押し切り、希望を胸に抱きドイツ軍に入隊した若い志願兵パウルとその仲間は、入隊して間も無く戦争の惨さ・恐ろしさを知る事になる…。

◉同名小説を映画化した同名タイトルが2作品。リメイクは3作品目となる。戦後何十年を経てもなお伝えたい反戦の意が、凄絶な描写や西部戦線の兵士らの顛末を通じて、作品の至る所に散りばめられている。

◉かなり迫力とリアリティに富んだ戦争描写が印象的。トラウマ級の残酷なシーンも容赦ない。だけどそこにリアリティを感じるし、強烈に記憶に残った。

◉演技は総じて安定の好演…いや、快演。あまりにもリアル且つ、鬼気迫る緊張感に、あっという間にこの世界観に没入してしまった。












【以下ネタバレ含む】












◉タイトルの『西部戦線異状なし』の意味は、主人公パウル・ボイメルが戦死した日の司令部の報告に「西部戦線異状なし、報告すべき件なし」と記載された事に由来している。軍トップは豪華な食事や、体裁・面目、パンの焼き加減を気にしている(兵士が占拠した敵陣で普段は食べられない食材を貪り食べるシーンとの比較が印象的)。ドイツの勝利で終わりたいという理不尽な口実を理由に、停戦条約が結ばれる直前まで自国の兵士を前線に送り込み、戦いを強いる上官フリードリヒがその良い例で、いかに戦争が無意味で愚かなものか表している。

◉戦争は人を“人じゃない何か“にする。パウルがナイフで刺した敵を見て我に帰るシーンや、戦争の後遺症で死を選ぶ兵士、カチンスキーを撃った養鶏家の子どもがそれを物語っている。

◉いくら前線で人が死のうとも、若い兵士が次々に補充され、戦争に駆り出される。そしてまた若い兵士が補充され、戦争に駆り出される。死ぬ事を誉れとする戦争のシステムはこの上なく残酷。戦争は争いの火種と憎しみ・報復の連鎖しか生まない。全く同じ事が起きているロシアとウクライナの戦争が、いち早く終わりますように。
おなべ

おなべ