みりお

西部戦線異状なしのみりおのネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.4

このレビューはネタバレを含みます

たった数百メートルの土地を争って、4年もの間戦い続け、300万人もの兵士の死に場所となった西部戦線。
そこに派遣された、理想に燃える青年兵パウルの目線を通して、戦争の悲惨さがこれでもかと語られる作品だった。

プロパガンダは本当に怖い。
前線の悲惨さなんて、少し頭で考えれば想像できること。
けれどドイツの青年たちは、前線に行けないことが恥だと心から信じ、前線での戦いに胸を躍らせながら向かっていく。
その目は輝き、戦争に身を捧げられること、軍服に袖を通せることの喜びを噛み締めるかのようだ。
命を投げ出しに行くに等しいのに、前線で戦うことは名誉だと信じ込まされた若き兵士たちは、声高らかに歌いながら大地を踏みしめる。

そして戦場の悲惨さは言わずもがな。
西部戦線の前線は4年間戦っても、ほぼ全く動かなかったとのこと。
パウルの友人・アルベルトが、とある塹壕を飛び出す前に女性のポスターを貼って「行ってくるよ」と呼びかける。それを見て微笑むパウル。
そしてパウルは丸一日戦い続け、アルベルトを失い、さらに多くの仲間を失い、自身も瀕死の重傷を負ったところで、アルベルトが貼ったポスターを目にするのだ。
これほどの犠牲を払いながらも、彼等の前線は一瞬前進したのち、すぐにフランス軍に押し戻されて、同じ場所に帰ってきたのだ。
300万人の兵士はみな、永遠に繰り返される意味のないおしくらまんじゅうの前に散っていった。
その皮肉さを物語る、アルベルトの貼った女性のポスターは言葉にできない悲惨さと空虚さを、観る人の胸に残していく。

そして一番許せないのが、1分でも早く停戦することで一人でも多くの兵士の命を救おうとするエルツベルガー代表団の想いを全く汲み取ることなく、停戦までの残り数分を利用して「勝利」という肩書きにこだわった西部戦線の将軍だ。
人の命を一体なんだと思っているのか。
「戦争」「勝利」という言葉の前に一人一人の兵士の命は儚く、何百万人の兵士が死のうと「戦線に異状なし」と報告されてしまうことの悲惨さ、戦争の本当の意味での恐ろしさが、抉り出された作品だった。

本作は英国アカデミー賞で7部門受賞という快挙を遂げたそう。
その他の米国主催の賞レースでは『エブエブ』が席巻している。
ロシアのウクライナ侵攻が止まらず、何人ものパウルが戦場に向かう中、軽いノリでダイバーシティを説く『エブエブ』が全世界で評価されるのはなぜなんだろう。
真に評価されるべきものとは…と、つい思ってしまった。


【ストーリー】

第1次世界大戦下のヨーロッパ。
ドイツ軍に志願した17歳のパウルや仲間たちは、西部戦線で戦う部隊に配属される。
最初は祖国のために戦おうと強い志を抱いていたパウルたちだったが、凄惨な戦場を目の当たりにし、戦意を失っていく。


【キャスト・スタッフ】

*監督:エドワード・ベルガー
ドイツ出身🇩🇪
ニューヨーク大学に進み、在学中からいくつものshortfilmを製作。
そして1998年に『Gomez』で映画監督デビューし、その後は映画とTVドラマ両方の監督を務めながらキャリアを積み重ねています。
2014年の『Jack』はドイツの映画賞で高く評価されています✨


*パウル:フェリックス・カマラー
ドイツ出身🇩🇪
オペラ歌手の両親のもとに生まれ、いくつか舞台経験があるようですが、本作が映像作品としてはほぼデビュー作🌟
オーディションを経て掴み取った役だそうです✨
前線に派遣された日のパウルの顔と、18ヶ月後の全線でのパウルの顔は、本当に素晴らしい演じ分けだなぁとつくづく思いました。
キラキラした理想はなくなり、やつれはもちろん、凄惨な前線を目にして死んだ魚のような目をして何をするにも覇気がないパウルを演じ分けたフェリックスくんは素晴らしすぎる。
今後もたくさんの作品に出てほしいです✨
みりお

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