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西部戦線異状なしのvincentのレビュー・感想・評価

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
4.0
半世紀前に読んだ内容をすっかり忘れている。
成る程、今まで再読しようと思わなかった理由がよく分かった。

映画では塹壕戦の恐怖が余す所なく描かれている。
戦争を選択してそれを推し進めようとする政治の狂気にも目配りが効いている。
ドイツはクラウゼビッツを生んだ国であり、戦争の意味を論理化して遂行する事を躊躇わない国でもあった。
制作がそのドイツであることで鉄と血のリアリティが迫真の出来になっていると思える。
本作の戦場は、プライベートライアンやバンドオブブラザーズで描かれる戦場とは確かに質が異なる。

世界は地獄を演出し地獄を経験して国際連盟を作った筈だった。
かのヒトラーも塹壕戦を生き残った一人だったし、エゴン・シーレもそこに居た。
ヒトラーの心に恐怖は残らず、シーレは恐怖を後世に伝える仕事をしなかった。
奇しくもヒトラーはウィーンの美大に落ち、その数年後シーレは若き天才として進学を果たした史実がある。
人の因果は歴史に対して無力だったろう。
だから国際連盟も無力だった。
戦後二十年そこそこで第二次世界大戦が勃発し、今度は民間人も多数巻き込む地獄が繰り広げられたのだから。

映画を見終わった後様々な事を考えた。
今日、ウクライナとロシアが対峙する最前線では塹壕戦が戦われていると言う。
そこで繰り広げられている修羅場は映画のままに違いない。
とすれば要はこう言うことだろう。
勝者の歴史から学び取れることは何も無い。
敗者の歴史が残す教訓にも意味は無い。
だから国際連盟が無力だったのと同様に国際連合も無力である。
ウクライナの現実はその証だと思える。

さてレマルクを再読できるか。
それには映画を見る以上の覚悟が必要そうだ。
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