クッキーリュウ太郎

西部戦線異状なしのクッキーリュウ太郎のネタバレレビュー・内容・結末

西部戦線異状なし(2022年製作の映画)
1.5

このレビューはネタバレを含みます

技術や機材の進化により映像は格段に向上したが、原作小説や1930年版の映画を観てしまった後では「なんだこれ」としか言いようがない。
(はっきり言っておくが懐古主義のつもりは全くない)
まだ今作を観ていない人はネタバレになるのでここで読むのをやめてもらいたいが、もし観終わった後でこのレビューを読んでいるというなら、私の気持ちが痛い程分かるという方もいらっしゃるだろう。


ハッキリ言って駄作だった。
同名なだけの中身別物の駄作。
原作に忠実だった1930年版の時点であれほどまでに完成されていた物語を大幅に端折った挙句、欠かしてはならない主要キャラを減らしたうえ大した深掘りもせず視聴者置いてけぼりで話が進むのは原作や旧作を知っている身からしても付いていけなくなるほどだった。
そもそもこの『西部戦線異状なし』という100年以上も前の作品がここまで評価され、何度もリメイクを繰り返してきた所以は、登場人物らの”変貌”にこそあった訳で、物語開始直後の未だ純真な若者であった彼らがいかにして戦争という無惨極まりない地獄へ足を運ぶハメになったのかという導入部分、そしてどういう過程を経て次第に人を殺す事になんの抵抗もない”ありふれた兵士”へと変わっていってしまったのか。
そしてその”兵士となった彼ら”が中盤以降で描かれる束の間の平穏で交わす何気ない日常の会話にこそ、この作品が未だ傑作として名高い真の理由が秘められていたのだが、あろうことかそれらは殆ど削除され、代わりにド迫力()で陳腐な戦闘シーンに置き換えられてしまった。
なんて事だろう。
これならば『西部戦線異状なし』である必要が全くない。

そして更に納得がいかないのは、カチンスキ―(カッツ)の最期についての改悪だ。
なんだあれは?
あれほどまでに死を恐怖し、直前に「明日が怖い」とまで言った人物らが休戦の報を聞いた直後に撃たれる危険性があると知っている農家にへらへら笑いながら食料調達なんぞ行く訳がないだろ。冷静に考えて。
しかも農家の主からの銃撃を躱すため必死に大の大人が全速力で走って逃げた先に、先程まで農家の主の傍らにいた未だ10歳かそこらの少年が銃を持って先回りしていて挙句の果てに足音もさせずに現れ背後から撃つ?
スーパーマンか何かか?空を飛んだというのか?
何を考えとるんだ。
製作側の意図は分かる。どうせ戦争の無情感を演出してやりたいと思ったのだろう。それを子供の手で行う事で、更に悲惨さを際立たせようと思ったのだろうが、それはハッキリ言ってナンセンスだ。
何故ならそんなものは原作小説や1930年版の映像作品で描かれたカッツの死に方で既に十二分に完成されていたからだ。そこへ今作のような改変を入れるのは、熟成された高級ワインに隠し味と称して痰を吐き捨てるのとなんら変わらない。
台無しだ。
カチンスキ―のあの末路こそが戦争の悲惨さをこれでもかと読者へ、視聴者へ強く深く印象的に訴えかけてくれていたのだ。それをよくもこんな駄作にしてくれた!

映像自体は素晴らしいのでもう少しスコアを高くしたかったが、あまりにも物語の改悪が多すぎたので残念ながら1.5とさせて頂きます。
残念です。本当に。

あとこの作品に対するレビューで『過去作や原作と比べる必要はない』等と偽善的な戯言を吐いて自己満足に浸っている感想を私がこれを投稿した直後に上げた人がいるが
はっきり言って片腹痛い。
なら『西部戦線異状なし』という看板を外してから別名で映画を撮れという話になる。
そうしなかったのは原作が持つ名声を利用した宣伝を製作陣がしたかったという事であり、その結果こうして原作や過去作のような完成度を期待して視聴したファンから不満の声が上がるのは避けようのない事だと思うが?
完全オリジナル映画ならば私もこの作品をもっと良い形で評価出来ただろう。
しかし『西部戦線異状なし』という原作あり、過去作ありの作品のリメイクとして見たら、これはどう見ても駄作であるという他ない。