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フェイブルマンズのriikoのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.0

このレビューはネタバレを含みます

正直、少し肩透かしを食った。
幼少期のスピルバーグが映画にのめり込んでいく過程こそあったが、映画に焦点を当てた困難や挫折、そして成功を辿る物語だとおもっていた。

でも良い意味で違った、もっとパーソナルな彼の根源を辿る青年期までの話だった。
例えば彼が泳げないという事実に端して、スピルバーグ作品には水を危険の象徴としているようなシーンがいくつもあるように、そのパーソナルな部分こそ彼の作品に深く影響を与えていた。

全ての出来事に意味がある、
序盤の母親の言葉がそれ以降の描写でたびたび思い出される。

学生時代の映像作品の制作シーンでは、自身を虐めた相手をその資質があるとしてヒーローに描く一方で、
"彼の恥ずべき秘密"を数十年越しに映画として全世界に公開してしまうのは、さながら"仕返し"のように見えて思わず口が綻んだ。

本作の肝である両親、とりわけ母の描写。
本作の制作のきっかけが両親の他界であることは想像に易い、と感じるほどに彼の視界を通した両親の描写が多い。
彼に良くも悪くも影を落としたのは母親で、いかに多大な存在だったのかをこの物語では抽象・具体さまざまに象徴的に語られる。
一方で父に対しても優秀な頭脳の持ち主であることを度々示しており、キャッチミーイフユーキャンにあるような優秀な父に認められたいという子供ながらの潜在的な思いも感じ取れた。

先のいじめっ子の友人同様に両親との「秘密の約束」の描写もあったが、
他界したことをきっかけに映画を介して明るみに出したことは彼の映画人としての意地、大袈裟に言えば生き方のように感じた。

映画館を出たら頭上にフェイブルマンズの大きな広告があった。
同時に、親や学生時代の友達とスピルバーグの作品を観に行った日の記憶が蘇った。
彼の人生の一端は彼の作品を通してずっと共有されてきたんだなと唐突に実感し、そして私もまた彼の作品を通してさまざまな思い出を作って生きてきたのだと気付いた。
映画館を出たあとにじわじわと感動が波紋のように拡がっていく不思議な体験だった。

欲を言えば、"最後のカットからの彼"も観たかったけど、
そこからは観客としてスクリーンでずっと観てきたもんな。これからも。
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