なお

フェイブルマンズのなおのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

自分が初めて触れたスピルバーグ作品ってなんだったかな…
恐らくレンタルビデオ店で借りた『インディ・ジョーンズ』が最初だったと思う。

スピルバーグ監督作品は、それこそ「ドラえもん」とか「クレヨンしんちゃん」並に”避けては通れぬ”誰もが一度は見たこと・聞いたことがあるコンテンツなんですよね。

そんな映画界の巨匠、スティーヴン・スピルバーグ監督が「この物語を語らずに自分のキャリアを終えるなんて、想像すらできない」というコメントを残している肝入りの作品。

ちなみに本作も、「アカデミー賞受賞最有力候補」の看板を引っ提げている作品。
いったいいくつあるんだ、「最有力候補」とやらは…

✏️出来事には全て意味がある
誰もが認める映画界の巨匠、スティーヴン・スピルバーグ監督。
彼が映画制作にのめりこむ大きなきっかけと与えた幼少期~青年期のエピソードをベースとする自伝的作品。

あくまで自伝「的」であるところがミソ。

本作の主人公の名前はサミー・フェイブルマン。
つまり、スピルバーグ監督本人ではない。

映画タイトルになっている「The Fabelmans」だが、これは「フェイブルマンズ」つまり「フェイブルマン一家」のことを指している。
また「Fabel」とはドイツ語で「寓話、おとぎ話」という意味。

このことから、本作は「100%純粋なスピルバーグ監督の生い立ちを描く伝記モノ」というよりも「スピルバーグ監督の体験をベースに制作されたドラマ作品」それこそ一種の「寓話」として楽しむのがよろしい。

しかし「寓話」とはいっても、サミーの家族構成や両親の職業、また劇中サミーが体験する出来事や事件は、スピルバーグ監督が体験した史実に忠実である。

一例を挙げると…
・父、アーノルドは電気技師。
・母、リアはピアニスト。
・アーノルドとリアは後に離婚している。
・父親の仕事の関係で引っ越しが多かった。
・幼少期のスピルバーグは、ジョン・フォード監督『地上最大のショウ』に感銘を受け、映画制作に興味を持つようになった。
・青年期、スピルバーグはボーイスカウトを経験した。
・スピルバーグは学校でいじめを受けていた。
(ユダヤ人であること、学習障害を持っていたことが主な理由)
などなど。

幼少期~青年期のスピルバーグ監督が過ごした、鮮烈かつ明暗さまざまな濃ゆい時間。
後の映画制作に多大な影響を与えることになるこれらの事件や出来事を、誇張なしに、真摯に描いたのがこの映画。

本作で印象深かったシーンは2つ。
それぞれ共通のテーマとメッセージ性をはらんでいる。

まずは、サミーが家族とキャンプに出かけた際の出来事。
キャンプの風景を撮影するように言われていたサミーは、いつものように家族の団欒風景をカメラに収めていく。

出来上がったフィルムを確認していると、そこには明らかに「仲がいい」という表現では片づけられない母と、父の同僚であり親友のベニーの姿が映っていた…

もう一つは、サミーが通う学校の「おサボり日」を過ごす卒業生たちの溌剌とした風景を描いた作品の上映会後の出来事。

上映会が終わりサミーがひとり廊下でうなだれていると、サミーのことを目の敵にしていたローガンが詰め寄ってくる。
「なぜ俺のことをあんな風に映した」
「安っぽい映画スターみたいだ」

この言葉にサミーは面食らってしまう。
自分としては、ローガンを主役的に、ヒロイックに映したはずなのに…

カメラとは、人の目には残らない・映しきれない「記憶」や「時間」というものを一生固定しておける道具だ。
みんなで過ごす楽しいひとときはもちろん、残酷なありのままの”姿”をも---。

この出来事でサミー、つまりスピルバーグ監督が感じた教訓って
「物語をカメラに収めることの怖さ」なんじゃないかなぁ、と。
映像の収め方や表現の仕方によっては、嘘を誠に、誠を嘘に仕立て上げることもできてしまう。

真実をそのまま映してしまったことで、サミーの家族の間には一生埋まらない深い溝ができてしまった。
それとは逆に、学園のヒーロー的なローガンという「虚構=フィクション」を作り上げたことで彼の心を傷つけてしまった。

これはあくまで自分の推測だし、憶測の域を出ない妄想でもある。
だがしかしこの教訓が本当にそうならば、スピルバーグ監督はこのとき早くも「フィクションとノンフィクションの境界線」を知ることができていたんではないかな…

だからこそ、現実的で、でもどこか非現実的だったりする絶妙なバランスを持った、世代を超えて愛される名作たちを生みだしてこられたんじゃないかなぁ、と思った。

☑️まとめ
スピルバーグ監督の映画制作に多大な影響を与えることとなった濃密な時間を、サミー・フェイブルマンという一人の青年に憑依させ描き切った作品。

「スピルバーグ監督のバックボーン」というよりは、どちらかというとそんな”背骨”ができる以前の、産声をあげる前のお話と表現するのが合っているかも。

『ジュラシック・パーク』や『インディ・ジョーンズ』などの名作が生まれるよりもかなり前の話なので、そういった名作たちを想起させるシーンや小ネタみたいなものはほぼ皆無。
(自分が気づいてないだけかも)

なので、そのへんの要素を期待して見に行くと肩透かしを食らう可能性大。
自分はどちらかというとその要素を期待していた側の人間だったので、このような点数。

「フェイブルマンズ2」みたいな感じで、映画業界に身を投じた後のサミーのお話を描いても面白いかもしれませんね。
その時には、上に書いたような名作たちが誕生するまでの経緯をバンバン描いてもらって…

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★☆☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:32(11)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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