けいと

フェイブルマンズのけいとのネタバレレビュー・内容・結末

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

久々に映画で泣いた。精神状態の問題もあるかもだけど今までで一番泣いた。
映画だけじゃなくて家族についての映画だった。


内容について
父親にとても感情移入してしまった。真面目で家族のために仕事も頑張っているけれど、楽しませることに関しては不器用なタイプ。キャンプなどでも気づいたらひとりぼっちになっている姿が切ない。妻が落ち込んでいる時も自分では元気にすることができないから息子に頼るしかないのがグッときてしまった。息子の映画に対する理解が最初はなかったが、最後に背中を押してくれるところも良かった。
一方、母親は冒頭に登場する台風のような人。その自由さで家族を崩壊させてしまうけれど、描き方からスピルバーグは憎んでいないことが伝わってきたし、自分も嫌いにはなれなかった。本来は芸術家タイプで家族に収まるような人間ではないため、夢を追えなかったという点では被害者。その溢れ出る情熱ゆえに他の人に対する恋心を抑えられないのも必然的だったと思う。とても明るくて家族のことは大切にしていたし、良い人であるのは間違いない。
主人公も共感する部分が多かった。映画関連のエピソードはとても面白くてやっぱりずっと天才だったんだなと感じるけど、印象的だったのは家族のエピソード。キャンプのフィルムで母の浮気を悟ってしまうシーンは本当にキツかった。母には言えない悩みで母を恨み、何も知らない母を困惑させて怒らせて衝突してしまうシーンが一番辛かった。頼んでもいないのに勝手に産んだ両親を憎んでいた時期が自分にもあった(決して両親が不倫していたわけではない)のであのシーンはとても共感したし、空気感がとてもリアルだったからこそ刺さりすぎてボロボロ泣いてしまった。感情的になる母親が自分の母に重なったし、あのシーンのミシェル・ウィリアムズはずば抜けて素晴らしいと思う。フィルムを母に見せるシーンも、フィルム映像は映さずにドリーでミシェル・ウィリアムズに寄って行き、その表情だけで物語るシーンは圧巻だった(このシーンで涙が止まらなくなった)。正式に離婚が決定して家族に報告するシーンでも泣いてしまったが、泣いている兄弟にカメラを向ける妄想をする主人公には天才がゆえの狂気を感じた。スピルバーグ曰く、辛い出来事があった際はどうカメラを回せば面白く映るかを想像して苦痛を和らげるらしい。確かに辛い経験をフィクションに落とし込んだら面白いものが出来上がるかなと想像することはあるけれど、さすがにその場でカメラを回そうという発想はなかったので引いた。
この映画は上記のように家族が主題の一つでもある。劇中でも語られていたように、家族と夢(芸術)の狭間で葛藤しながらも夢を追っていくスピルバーグの物語なのかなと感じた。そんな物語ではありながらも、作中の描写から家族に対する愛情がすごい伝わってきたのがすごい好きだった。

映画のことを描いているけれど、その良い部分だけでなく残酷な部分を描いているのがとても印象的。カメラはありのままを映すので映したくないものまで映り込んでしまうし、映し方や編集によっては現実以上のことも作り出せてしまうという凶暴さを描いているのが他の映画との決定的な差だと思う。この映画は、そういった映画やカメラの残酷な部分に向き合った上で監督を目指していくスピルバーグを描いた物語でもあると思う。

演出について
スピルバーグはカットを割らずに流れるようなワンカットで自然に様々な画を魅せる凄技が魅力だと思っている(もちろんモンタージュ技術もすごい)。その凄腕は冒頭から発揮され、歩行者→行列→主人公→父親との2S→母親との2S→映画館→鑑賞する映画のタイトルという流れをワンカットで映していて最高だった(なお、その後は内容に夢中になってショット的なことは覚えていないのでもう一回観たい)。
カミンスキーの撮影も相変わらず素晴らしく、母親がサミーにカメラを渡すショットの差し込む光と輝くカメラが特に天才的だった。
水道水を飲むシーンは唐突にフレームに入る人間がとても怖く、恐怖演出が顔を覗かせているのも面白かった。
不倫相手とサミーが対峙するシーンはただの会話劇になることはなく、立ち位置が入れ替わる演出も基本的なものではあるのだろうがさすが。
有名なジョンフォードとの邂逅エピソードはめちゃくちゃテンションが上がった。その内容を踏まえてのラストショットが死ぬほど好き。作品自体はとても重苦しい内容が多かったのに、慌てて地平線のアドバイスを守るラストショットの軽やかさで暖かい気持ちになってしまった。

たくさん書いたけど、内容的にはすごい共感できたし、映画的にもすごいし、本当に大好きな映画。オールタイムベストに入るレベルかもしれない。
けいと

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