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フェイブルマンズのKasaのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.8
笑えて泣けて、温まる。美しく、無駄がない。「これぞ映画」という感じの作品。

と同時に、自分の思い出と重なって辛くなる部分もあった。それは、芸術の残酷さを極めて冷静に、リアルに描いているからだと思う。スピルバーグ作品が世界中の人の心に残り続けるのは、彼が、芸術とそれに翻弄される人間のことを誰よりも理解しているからなのかも。

観終わったあとにスタンディングオベーションをしたくなった。老若男女、属性がバラバラっぽい人たちが、笑顔で劇場を出ていくのが印象的だった。久しぶりの光景。

以外個人的長文メモ。
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「芸術は麻薬だ」
この台詞、ずるい。いちばん刺さった。

誰にも言えなかったけど、実は、家族や友だちや恋人といるより、自分の好きな分野でものを作るほうが、何倍も楽しいんだよね。それこそ麻薬のように、食事も忘れる。自分の原動力だから、それができなくなったり向き合うのをやめた途端、人生の歯車がうまく回らなくなるんだよね。めちゃくちゃわかる。

物心ついたときからずっと絵を描いているから、芸術のことを「遊び」だと思っている人がたくさんいる状況、空気感に痛いほど共感した。令和の日本にもたくさんいると思う。映画研究会や美術部、演劇部などは、野球やサッカーやバスケよりも、いわゆる”カースト”がかなり低い。賞をとっても、行事の度に仕事を頼まれて寝る間を惜しんで作品を仕上げても、それは変わらない。なぜか「才能があってうらやましい」というような、簡単なひと言で片付けられてしまう。「スポーツの方が努力と根性を要する。あなたたちのは遊び」というような感じで。子どもだけじゃなく、教師にもいたぐらいだから、世の親にもたくさんいるんじゃないかな。

でもそれは、悪意があるわけではなく、物事の捉え方が違うだけなのだ。この映画は、そんなどうしようもない現実をつきつける残酷さも持ち合わせている。

芸術のことを「遊び」だと言っていた人たちは、この映画を観て何を感じとるんだろう。すごく気になる。

スピルバーグが、芽を摘まれずに夢をあきらめないでいてくれて本当に良かった。
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