Hiroki

フェイブルマンズのHirokiのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
3.8
第95回アカデミー賞授賞式から1週間。
まずはそのお話から。
しばらく『フェイブルマンズ』ほぼ関係ないので興味のない方は読み飛ばしてください。

前評判通り『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』が作品/監督/主演女優/助演女優/助演男優の主要5部門を含む7部門制覇。
『フェイブルマンズ』『イニシェリン島の精霊』『TAR/ター』をことごとく倒しての圧勝劇。
ここまでの主要部門独占は近年では久しぶりな気がします。
とにかく強かった!
そしてキー・ホイ・クァン、ジェイミー・リー・カーティス、ミシェル・ヨー、ダニエルズ、ジョナサン・ワン、みんなのスピーチが本当に素晴らしかった!
前哨戦からずっとそーなんだけど、チームとしての結束がやはり段違いでお互いのリスペクトや愛に溢れるやり取りがこれで見れなくなるかと思うと寂しい。
日本ではまだまだこれから興行が盛り上がりそう!

主演男優賞はコリン・ファレル、オースティン・バトラーとの三つ巴を制した『ザ・ホエール』のブレンダン・フレーザーが見事なカムバック。
これにより両作品を配給するA24は作品/監督/主演/助演の主要部門を独占した初めてのスタジオになったとの事。
A24の攻勢はまだまだ続きそう!

技術賞では意外にも『西部戦線異状なし』が作曲/撮影/美術と国際長編映画賞の4部門受賞。
アメリカではイマイチかなと思ったけど。
『ギレルモ・デル・トロのピノッキオ』の長編アニメーションを含めNetflixも好調。
逆にメジャースタジオはユニバーサルが『ウーマン・トーキング 私たちの選択』で脚色賞、
ディズニーが『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』の視覚効果賞と『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』の衣装デザイン賞、
パラマウントが『トップガン マーヴェリック』の音響賞の受賞に止まり非常に厳しい結果に。
メジャースタジオ試練の時。

あとはなんといっても『RRR』の歌曲賞!
歌唱パフォーマンスや司会のジミー・キンメルが話が長くなったらナートゥで止めに入る演出など多いに沸かせていました。(ジミー・キンメルの失言は残念だったけど...)

個人的には主演女優賞ノミニーのアナ・デ・アルマスにコールが起きたり(『ブロンド』に対する非常に辛辣な意見に対する映画人からの声援)、ブレンダン・フレイザーやキー・ホイ・クァンの復活などとても映画愛に溢れたオスカーだった。
昨年からのカウンターからなのか、とても連帯が(それは嫌らしいくらい)前面にでていた。

たしかサラ・ポーリーが「ある人の涙は9ヶ月もの間無償でロビー活動をしてきた事に対するものかも知れない」と話していたが、もちろん賞を獲った作品が素晴らしくて獲れなかった作品がしょうもない作品なわけではない。
アカデミー賞は熱烈なロビー活動の元にそれぞれの思惑と共に決まるものであるから。
しかしそれでもこの低予算でマイノリティが作り10館からスタートした映画が、全米中で話題になってこの快挙に帰結するというストーリーには希望を見てしまう。
これからの映画界にとって非常に大きな分岐点になりそうなアカデミー賞だった。


さて今作ですが私は監督賞を獲ると思っていました。
映画の内容とスピルバーグの功績を考えると、年配の会員はこちらにいくのではないかと。まーそれを打ち破るくらいダニエルズが強かったという事か...
という事でスピルバーグの半自伝的作品。
主に5〜17歳くらいまでのお話です。
これ私は全く事前情報を入れずに行ったので実はもっと後半、スピルバーグが映画を作り始めてからの話もあると思っていた。
なので少し拍子抜けしてしまいました。
『JAWS』とか『E.T.』とか『ジュラシック・パーク』をどーいう中で作っていたのかを垣間見える、映画愛的な内容だと思っていたので。
スピルバーグが映画監督になるまでの私小説という感じ。

“フェイブルマン”というのは“作り話の人”という意味で本名で作りたくなかったスピルバーグに共同脚本のトニー・クシュナーが提案した名前。
というのも作品の内容的に本名を使うと傷つく人がいるからという配慮らしい。(しかもスピルバーグは両親が亡くなってからしか製作しないと決めていたとか...)
ただここまで現実と同じ作りだとあまり意味がないような気もするが...

非常に面白いなーと思ったのが、映像の切り取りの恐ろしさを明示している点。
学生の頃のサミー(ガブリエル・ラベル)ことスピルバーグは家族のキャンプや学校の行事などドキュメンタリー映像の撮影をしているんだけど、編集次第でどーにでも事実を曲解できるという事に気づいてしまう。
キャンプの時に母親ミッツィ(ミシェル・ウィリアムズ)と父親バート(ポール・ダノ)の相棒ベニー(セス・ローゲン)との怪しい関係に気づいてしまうが編集でそこはバッサリ切って家族の上映会で流す。
そして怪しい関係部分だけを繋いだ映像を母親だけに見せる。
学校の行事では自分をいじめていたリーダーのローガン(サム・レヒナース)のかっこいい映像ばかりを集めて編集する。
それを見たローガンは逆に惨めな気持ちになってサミーを問いただす。
さらに空を飛ぶ鳥を撮ってから地面に寝そべる同級生にカメラを向けて、その瞬間に白いクリームを顔にかける。まるで糞が落ちてきたように。
こーいうフェイク映像をとって遊んでいる。
映像を切り取り、さらには手を加えて真実を作り出す。
そして人の感情をコントロールする。
ティーンの頃からこういう記録映像の持つ恐ろしさに気づいていたのだとしたら、やはりスピルバーグ恐るべし。

あとはラストのジョン・フォードを演じるデヴィッド・リンチのラスボス感が凄すぎました!
生涯で140本以上の作品を撮り、オスカー監督賞を最多の4度受賞しているレジェンドを演じられるのはやはりこの人。
このシークエンスでスピルバーグが映画監督という道へと踏み出す終わり方も悪くない。
でもやはりその後が観たかった!
そもそもニュージャージー時代もアリゾナ時代もカルフォルニア時代もそこまで繋がりはなく、ひとつひとつの物語が独立してスピルバーグに影響を与えていたように感じたので、その後の映画を撮り始めてからも含めた10話くらいのドラマシリーズの方が合っていたような気がする。
映画として世に生み出したかったのはわかるけども...

個人的に母親のミッツィの奔放さもちょっと厳しかった。
サミーに「家族を裏切る(父親と離婚する)事はない」と言っておきながら、結局離婚したり。
端々に感じる自意識みたいなものがちょっと見てられなかった...
まースピルバーグが語っているのでどこまで本当なのかはわからないけど。
でも自分の親なら嫌だなー。
父親も父親でイヤだけど。
演じていたミシェル・ウィリアムズはなぜかオスカーでは主演女優賞にノミネートされていて、どちらかというと助演女優賞でそちらなら受賞の可能性有りと言われていたみたいなんだけど。
今回のジェイミー・リー・カーティス、アンジェラ・バセット、ケリー・コンドン、ステファニー・スーという中に入ったらさすがに無理だったでしょ。
たしかに主演ではないと思うけど。

最後に興収では北米で約1,700万ドル(約22億円)、全世界で約4,000万ドル(約52億円)とかなり厳しい結果に。
ちなみに北米の2022年でいうと全体の67位(約1,200万ドル)で、『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』(40位、約3,800万ドル)『劇場版 呪術廻戦0』(43位、約3,500万ドル)『アバター』(48位、約2,400万ドル※続編に向けて再リリースされた作品)『ONE PIECE FILM RED』(65位、約1,300万ドル)にも負けている。もう一度言いますが北米のランキングです。
スピルバーグという名前だけではもはや数字が取れなくなっている。
さすがにスピルバーグが映画を撮れなくなる事はないと思うが、時代の流れには勝てない。
そんな哀愁を、キー・ホイ・クァンが飛び跳ねて喜ぶ姿を優しく微笑みながら見守るスピルバーグから感じてしまったオスカーでした。

2023-18
Hiroki

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