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フェイブルマンズのumisodachiのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.6


スピルバーグの自伝的作品。

エンジニアの父とピアニストの母を持つサミーは、映画館に行った日から撮影に夢中になる。どんどんサミーの作品はスケールアップしていくが、父はあくまでもそれを趣味として応援するのみ。反対に、母はサミーの才能を信じて背中を押していた。ティーンエイジャーになったサミーは、家族と父の親友ベニーで行ったキャンプの映像を編集する。実母を亡くして落ち込む母を元気づけるためだった。しかし、そこに映っていたのは……。

映画に魅せられた少年の夢実現物語!というにはあまりにビターで残酷なストーリーだった。芸術家の業や人間のいかんともしがたさが詰め込まれていて、とても苦しい。母親を演じていたミシェル・ウィリアムズの演技が的確で現実味に溢れていたのもあり、途中からはけっこう不穏な要素が強く胸が痛んだ。

では重い映画なのかといわれるとそうではなく、全体的なテイストは軽めでテンポも良い。さすがスピルバーグというテクニカルなシーンが満載で、余計につらい。こんなにも痛みを伴う自分自身のストーリーを、こんなにも小気味よく映画にしていってしまうスピルバーグの業を感じてしまうから。

現実主義者で理系の父親と、精神世界を大切にする芸術家の母親という対比はステレオタイプだし、私個人としては芸術家肌なら感情にまかせて周囲を傷つけても「仕方がない」で許されるのはおかしいと思う。それに、サミーに対する「あなたは私と似ている」という言葉の呪いも残酷だ。母を許すことを強要し、何もしていないのに罪の意識を植え付けることになる。

案の定、母の呪いを植え付けられたサミーは『フェイブルマンズ』の中でメタ的に道義に反する行動をしている。友人との約束を破り、家族の秘密を暴く。天才だから「映画にせずにはいられない」という言い訳はあまりに身勝手だが、つい許したくなる洒脱さと開き直りがあるのは否定できない。天国にいあるであろう彼の両親や友人(はまだ生きているのかもしれないけど笑)も、きっと笑ってウ許すだろうなという余裕があるのがニクい。

それにしても、とことん上手だなと思う。軽快で笑えるセリフの応酬も、途中でやってきた伯父との短いながらも強烈なシーンも、サミーがカメラを通して「撮らざるをえなかった」風景も、言葉ではなく常に表情だけで語らせる重大な心の動きや発見も、すべてが上手すぎる。

そして、ラストのあの一瞬。その直前に来る驚きのキャスティングと印象的なセリフを受けての、最後の最後のあの一瞬に「こんなのかなわないや」と呆然としてしまった。カメラの動きだけで表現できることはきっと無限にある。だから映画を観るのをやめられない。




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