寝木裕和

フェイブルマンズの寝木裕和のレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
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たしかに、この作品はスピルバーグ自身の若かりし頃とその家族を描いた自伝的物語だ。

しかし、そこにはこの現代を生きる私たちの目から見ても、考えこんでしまうようなメッセージが織り込まれていると感じた。

主人公サミーは幼少期に映像を撮るということの面白さに魅せられて以来、周りの家族や日々の出来事を映し残していた。
けれどもある日、偶然撮っていたキャンプ場で過ごす家族の映像を見直していて知らなかった家族の謎を発見してしまう。
その自分が見つけてしまった「家族の秘密」を隠すため、編集し、何事もなかったように自宅で上映する。

またある時は高校の卒業パーティーで、自分に対して陰湿なイジメをしていたローガンをまるでヒーローのように見栄えよく編集した動画を上映して、逆にそのローガンから「あれはオレじゃない!なんであんな風に映したんだ!」と逆上されたりする。

つまり、このあたりの演出は現代のSNSやインターネットサイトでも個人で気軽に、なんの躊躇もなく動画や画像をアップできてしまうことに対しての揶揄も感じられるのだ。

大作映画だとしても、ミニマルなレベルの映像でも、物を撮りそれを編集して作品として世の人々の目に触れられるのならば、そこには虚も実もあり、すべてはその映像に手を加える者に委ねられるという恐ろしさが生じるのも想像に難くない。

サミーにとって、10代の多感なときに、それを痛感することの意味。

最後のシーンで、人生で初めての映画スタジオを出た時のサミーの笑顔は、それでもそういった作品作りで生じる不安や恐怖心も乗り越えて、創作だけは続けていくんだという、意思表明にも感じられる。

スピルバーグの自叙伝的作品は、いつも通り彼の作品にある、夢と希望と冒険心に満ちていたのだった。
寝木裕和

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