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フェイブルマンズのhoshのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.1
スティーヴン・スピルバーグによる自伝映画。サミー少年(スピルバーグ)の幼少期からの映画製作と家族の破綻を描く。

人物描写にも芸術に関しても奥行きのある映画だなと感じた。技術者でクリエイター的精神は持ちながらも芸術には疎い父。芸術に理解があり、自身もまたアーティストでありながら人間としては自分を優先し分裂した性格の母。2人の性質は真逆である。カメラを買い与えてくれる優しさもあれば、子供の人生を狂わせてしまうダメさもある。けれど、この2人のクリエイティブ精神や支えがなければサミーは映画を撮れなかった気がする。良いも悪いもある。この多層性。

これは映画の描写に関してもそう。本作は映画という尊い芸術活動をしながらも、それが暴力性を孕み、サミー自身の家族や人生を狂わせてしまうさまを描いている。特に生身の人間を恐ろしいほど輝かせて残してしまうという演出と撮影の暴力性(プロムの廊下の場面)と、切り取り方によって全く異なる映像を作り出せてしまう(母のフイルムを作る場面)という編集の鋭さにスポットを当てていたのには震えた。
本作は映画を撮ること、上映すること自体には尊さを見出しつつ、あくまで呪いの道具であり、苦しみを伴う仕事だとする。家族関係の軋みと製作の苦しみが並列して描かれるため作風はとても重い。しかしラスト10分でとんでもない茶目っ気とポジティビティを見せ、ユーモア抜群に締めてみせる。この多層的な表現には痺れるほかない。

150分という長尺が全く気にならない語りとショットの素晴らしさ。本能的に映画を見る快楽に満ちた映像。滑らかでありながら歪さやパーソナルを感じさせる新鮮な作風。50年近く傑作を生み出し続けていながらまだここまで神がかった作品を作り出せるスピルバーグの凄みに改めて震えてしまった。彼の新作を生きて見られる幸福を改めて噛み締めたい。当たり前じゃないぞ…!

余談だが、美しい創作をしながらもそれが人を壊してしまう点を描いた所と実際の映画監督を演者として起用している所に宮崎駿の『風立ちぬ』を思い出した。老齢になりながらも常に挑戦的な作品を作り続ける飽くなき探究心という点でもスピルバーグと宮崎駿は共通している。
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