Rick

フェイブルマンズのRickのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.7
 映画とは、なんと罪深いものか。人を楽しませ、人を感動させ、時には怒らせ、魂を浄化させ、傷つけ、癒し、勇気づける。映画の魔力は底知れず、観る人だけでなく、撮る人をも飲み込み、一生涯くくりつけてしまう。芸術とはまるで麻薬。その甘美なものによって、失ってしまうものも多かろう。その中毒に陥ることで、手放したこともたくさんあっただろう。それでも、ただそれだけが、生かし続けてくれた。人生全てが「映画」になってしまったとしても、それ以外に生きる道はない。それはどこまで行っても業だ、カルマだ。だけれども、だからこそ、映画が好きなのだ。
 カメラを回せば、全てが映画になってしまう監督の代表格といえば、スティーブン・スピルバーグだろう。とにかく映画が上手すぎる。構図に編集、テンポに至るまで気が利いていて、どんな酷い脚本であろうとも、なぜか心が動いてしまう。これまではそんな風にスピルバーグ作品を見ていたが、ここまで自覚的に映画の恐ろしさについての映画を出してくるとは思わなかった。どうしようもない孤独の中で、ただそれしかできないために撮り続けているものが、我々観客を楽しませる。それは哀しいことなのかも知れないが、そのことを語る時でさえどこまでも面白いのだ。光を出し続ける奥には必ず影ができる。その影すらも美しく、愛おしい。最後のワンカットに至るまで、「面白い画」を見せてくれる。
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