みかんぼうや

フェイブルマンズのみかんぼうやのレビュー・感想・評価

フェイブルマンズ(2022年製作の映画)
4.0
一時期かなりTLを賑わせたスピルバーグ初の自伝的作品。スピルバーグの作品は2000年代前半までの有名どころはそれなりに観ているものの(といっても12~3本?)、特に思い入れのある監督、というわけではなかったので、本作にも正直それほど期待していなかったのですが、家族愛と映画愛のバランスが絶妙で、エンタメ作品として純粋に面白かったです。映画を観た後の“満足感”を十二分に味わえる作品でした。

つい先日、アレハンドロ・ホドロフスキーの自伝的作品「エンドレス・ポエトリー」を観たばかりだったので、同じ映画監督の自伝的作品で、ともに家族との関わり合いを大テーマにしつつも、こうもそれぞれの監督の色で表現も印象も変わるのか、と自然と比較しながら楽しみました。もちろん、両者で親に対する意識がかなり異なるので、その時点でも大きな違いはありますが、全体を通して、ホドロフスキーはアート性、スピルバーグはエンタメ性がよく出ていて、「この違いがまた映画という総合芸術にして総合エンタメの面白さだよな~」などと、映画鑑賞の楽しさを噛みしめたのでした。

内容は、スピルバーグ少年が映画に心を奪われ映画作りに没頭していく過程と、その青春期における家族(特に両親)に対する感情を、あまり奇を衒った演出があるわけでもなく分かりやすくでデフォルメ化した作品なので、とても観やすいですし、分かりやすい分、彼の映画愛と家族への想いがストレートに伝わり、150分強の長さを全く感じさせませんでした。

締めを大巨匠ジョン・フォードとの出会いに持って行ったのもとってもクール(そして、ジョン・フォード役のあのキャスティングも最高!)。本作全般を通して、ジョン・フォードが語る“地平線”を意識した映像が作られていたのだろうな、とラストで熱い気持ちになりました。

キャストも非常に良かったです。ポール・ダノはもともと好きな俳優で、どちらかというと意地悪な尖った役が合う印象ですが、今作の温かくも妻との関係に葛藤を持つ父親役も合っていました。

しかし本作で一番存在感があったのは、やはり母を演じたミシェル・ウィリアムズでしょうか。中盤で見せる、息子の部屋の押し入れで観る息子が作った家族キャンプの映像。家族関係に変化が現れる非常に重要なシーンですが、かなり大事な母親の心理描写を、言葉ではなく、まさに“表情だけで語る”演技が本当に凄かった。うっとりとした表情から、ある種の絶望に変わるようなあの表情は、本作最大の見せ場の一つでしょう。

今作の終わり方から、続編ができても良さそうな気もしつつ、敢えてここで終わることに味があるような気もする作品ですが、いずれにせよスピルバーグの映画愛と濃密な家族ドラマがバランスよく混ざり合った、とても素敵な作品でした。
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