悪魔の毒々クチビル

オールドピープルの悪魔の毒々クチビルのレビュー・感想・評価

オールドピープル(2022年製作の映画)
3.6
何が見える?人か?動物か?

老人達が凶暴化して襲い掛かって来るお話。

クオリティの微妙さに定評のあるネトフリオリジナル作品からこちらのジャーマンホラーを。
どうせイマイチなんだろうなと思いつつ、「嵐の中で」や「シャドー・オブ・ナイト」や「ザ・ベビーシッター」と言った傑作もあるのも事実なので、定期的にチェックしてしまうのよね。

老人ホラーと言うと最近は「X」が話題になっていましたが、今作は突如として老人集団が凶暴化するどちらかと言うと「ザ・チャイルド」的な作品です。
一応顔面ぶっ潰されたりとゴアはありますが、画面の端っこの方で映すパターンのやつでした。
なのでジャーマンホラーと言えばイッテンバッハやシュナース辺りを真っ先に思い浮かべちゃう変態な方々からしたら、そこら辺の描写は圧倒的に物足りないでしょう。

因みに今作の監督はアンディ・フェッチャー。
フィルマに登録されている作品だと「アーバン・ハーベスト」がありますね。
大分前に観たので全然覚えていませんが、皮剥いだ部分に塩ぶっかけるという残虐調味料アタックだけは強烈だったので今でも唯一印象に残っています。
というか俺はこっちをTSUTAYAのレンタル落ちで100円くらいで購入したので、見返そうと思えばすぐに出来るんだけど、まぁ、あんま面白くはなかったから…ね?

今作もまた評価は低め。
老人達が凶暴化した理由も冒頭で語られていたような、ちょっと悪霊的な要素があるのかと思いきや孤独に老いていく寂しさだったり邪険に扱われる怒りが爆発したものっぽいんだけど、あちこちの老人が群れて暴徒化する理由としては全然納得行かないですよね。
あと作品内の「老人を敬え」というメッセージ性も、この映画自体が老人をゾンビのように扱っていて敬意が無かったりとかえって逆効果な演出が多いのも批判が集まる原因のようです。
で、実際その通りなんだけど個人的にはそこまで気にならなかったです。

トータルで鑑賞して思ったのは、一見社会問題を取り上げメッセージ性を込めた作品っぽい反面、中身はフィクションど真ん中なエンタメバイオレンスホラーだなと。
何ならもっとシンプルな老人ホラーが撮りたかったけど、昨今のメッセージ色の強い内容にしないと企画が通らなかったから表面だけでもそういう作風にしようとしたんじゃないかってくらい薄っぺらいです。
不良が雰囲気だけ真面目になろうと背筋伸ばして座るも、キレキレの剃り込みはそのまんまだし教科書はボロボロで落書きだらけです、みたいな。
そりゃ猛ダッシュしながら襲い掛かって来ますよね。ああいうのはもしかしたら特殊メイクで老人になった人達が演じていたのかもしれませんが。

物語としては村や街が被害に遭う描写もありますが、メインは主人公一家が人里離れた家での籠城戦なのでアグレッシブな展開も少ないです。
ただこういう片田舎が舞台のホラーを観ていると、若干古めの床や壁が軋む音だけでも不安を煽るお馴染みのくだりを改めて「ええなぁ」と思う事が出来ますな。
集団で家の周りを囲む姿だったり感情があるのかどうか分からない表情でこちらを見つめてきたりと、ゾンビっぽいっちゃゾンビっぽい。

先述のように襲う動機はギリ理解出来るんだけど、それが他の老人に伝染するように襲撃が拡大していく理由になるとは到底思えなかったりと脚本はかなり適当。
主人公一家の描き方、いやキャラ自体も普遍的過ぎてあまり印象に残らないと駄目な部分は沢山あれど、そこまで嫌いじゃないんですよね。
多分、老人への敬意云々でなく秘めた暴力性の恐ろしさを描く血みどろホラーになっていたらかなり面白かったんだろうなぁっていうのが観ていて感じられたから。
深みは無くとも時折見せる老人の有無を云わせぬ暴力性が結構好みでした。
冒頭の殺人シーン、助けを求めながら介護士を殴り殺すお爺さんなんかはまさにそっち方面だったし最初は「お、これは当たりなんじゃね?」と思っていました。
その後も「う~ん」となる場面はありつつも、さっきまであんなに幸せそうだったあの人が凄惨な死体と化していたりと随所にエグ味のある残酷さが散りばめられてたお陰で最後まで観られましたし。
お父さんの新しい恋人のくだりなんかは、ちょっとクドかったけど演技は良かったです。

で、ラストの愛こそ全てな展開もこんな適当な脚本ならではって感じがしてここも嫌いじゃないです。何なら「良かったね~」と思いながら観ていました。

もしかしたらメッセージ色強めの重厚な作品づくりを心がけていたのかもしれませんが、俺は本当は真面目になんてやりたくなかったホラーとして観てしまっていたので全く心に響くものはありませんでした。
でもたまに出てくる自分のツボに嵌まるシーンを楽しむホラーとしては結構楽しめました。