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J・MOVIE・WARS TOKYO BLOODの教授のレビュー・感想・評価

J・MOVIE・WARS TOKYO BLOOD(1993年製作の映画)
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いわゆる「雇われ仕事」的な一編ではあるが、一方で「やりたいことをやれる」場を活かした「短編」。

なんといっても山田辰夫といえば魔墓呂死の「ジン」だが、その彼が「大人になったら」という「what if」の世界観から湧き上がる感慨。
ストーリーは「あってないようなもの」ながら、東京の喧騒を疾走する山田辰夫がとにかく美しい。
「ジン」の頃から変わらぬ殺気と、握りしめた拳の怒り。短編映画だからこその無駄のない「ワンアイデア」でエモーションを爆発させる。

次は「岩井俊二的」世界の先駆けである「自転車」。いかにも自主映画っぽいテンプレ的な表現だからこそ、石井聰亙らしくなさの中に両極端な「生と死」が立ち上がる。
未成年による望まない妊娠、とAIDSに感染しての死への恐怖。とってつけたような物語と、とってつけたような爽やかな「自転車二人乗り」シーン。白けてしまうような内容をどれだけ撮り切るか、という意味で映像表現への挑戦としては興味深い。

後続の「エンジェル・ダスト」に連なるイメージを持つ「穴」。石井監督の切り取るオカルティックな東京という都市と、土地に纏わる忌まわしさと精神の病についての言及。個人的には松尾スズキが若くて驚く。

最後の「HEART OF STONE」も後続の「水の中の八月」のイメージ。宝生舞によるモノローグで語られる「少女」と「都市」「テクノロジー」と「スピリチュアル」を「石」と「水」に象徴させるイメージ。
やがて「肉体が喪失する」というのは石井監督が初期の頃に描き続けてきた「外的なものへの破壊衝動」から発展した「精神の中枢」に深く入り込むという反動的な突き詰めによるもの。
個人的にはこの「スピリチュアルSF」期の石井作品が好きなので、本作は無条件に感動してしまう。

短編映画なので、イメージを語るしか出来ないが、むしろこういう「映像先行」のよくわからないイマジネーションの爆発というところに石井聰亙は天才的なセンスを持っていると思う。
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