近本光司

銀河鉄道の父の近本光司のレビュー・感想・評価

銀河鉄道の父(2023年製作の映画)
3.5
満席にほど近い客席のあちこちから啜り泣く声が聞こえてくる。わたしもあの劇場の魔力に絆されたというところは否めないけれど、いい映画だと思う。ふつうの伝記とちがって宮沢賢治の父の視点で描かれる家族の物語自体は原作に依るところは大きいだろうし、軍国主義に突入していく社会の空気がまったく描けていないという誹りもあろうが、商業大作たる起承転結がしっかりつくられている。劇中で二たび登場する「雨ニモ負ケズ」をめぐる描写がニクイ。
 役所広司の巧さや菅田将暉の煩さはいつもの感じだけど、結核で夭折する賢治の妹を演じた森七菜がいい。彼女がこんなにいい芝居をできる役者だとは知らなくておもわず見なおしてしまった。