ツクヨミ

N・Pのツクヨミのレビュー・感想・評価

N・P(2020年製作の映画)
4.3
奇抜なサイレント映像と音響編集はさながら現代のルネ・クレールか、楽しすぎる実験精神の塊。
関係者がことごとく死を遂げている小説"N・P"。翻訳家加納風見はその秘密を追っていく…
"現代のサイレント映画"と宣伝されていて密かに気になっていた本作、いざ鑑賞してみると奇抜で暴れまわる音響に面くらいつつ、固定ショットの長回しにうっとりする不可思議な魅力にどっぷり浸かっていた。
まず今作はセリフが音を出さないサイレント映画になっており、さも往年のサイレント映画みたくわざわざセリフや解説のみの画面が挿入されるスタイルになっている。しかしそれだけではなくさながら海外映画を見る時の字幕を映像に表出するスタイルもあり、サイレント映画としては新しく現代的なのがすごい。
そして今作はサイレント映画だが音響が存在し、シーンによって環境音や人間の行動音が響くのがかなり前衛的。この手法はルネ・クレール監督の"巴里の屋根の下"に酷似しているが、今作はそれを上回る奇抜でサイレント映画に更なる進化を生み出したかもしれない。最初は映像に一つの音しか存在しない場面に、シーンが積み重なってゆくにつれ音が増えたり消えたりしていく。それにルネ・クレールさながらの映像の中で登場人物が起こした行動がスイッチとなり、音響に変化を起こすスタイルがめちゃくちゃ面白い。実験精神が最高に楽しい作品だった。
そして今作は最近記憶に新しい"春原さんのうた"よろしく、基本固定ショットによる構図美が最高で長回しのうっとり感も素晴らしい。現代の小津安二郎と言いたいが、たまに移動するカメラワークもありそこまでは言えないか。しかし本当に素敵なショットの連続が良いし、たまにサスペンスのようなえぐい怖さと音響がでるギャップにもびっくり。なんと奇抜で前衛なのだろうか。またラストのエンドロールまで奇抜さがびっちり、最後まで口があんぐりでこれはシャンタル・アケルマン監督の要素もあるかもなと感じたエンドロール。誠に現代のサイレント映画は革新的で奇抜.前衛なる面白さを見せてくれた。
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