ワンコ

N・Pのワンコのレビュー・感想・評価

N・P(2020年製作の映画)
4.8
【ループ/答えのない答えを求めて】

60分の短い作品で、無声映画だったこともあって、字幕に集中したり、結構見入ってしまった。

とても実験的で、映画制作としてはとても面白い試みだと思う。

ずいぶん前になるが、この吉本ばななさん原作の「N・P」を読んだことがあったので、記憶を辿りながらの鑑賞だった。

吉本ばななさんの小説は、お父さんの吉本隆明さんのターミノロジーとは違って、難解な言葉は出てこない……が、言葉使いや表現が巧みで、一度目を通す程度で読み過ごすと、もう一回読み返さないと登場人物の心情など深く感じ入ることが出来なかったりする。

監督や俳優さんの舞台挨拶付きの上映回で、監督が、たまたま無声映画にしようと思ったと、割と動機は曖昧だったようにお話しされていた。
ただ、吉本ばななさんの比較的平易な言葉使いの中の巧みな表現を考えると、映像と共に、或いは、映像と交互にサブタイトル、つまり、字幕を観る(読む)のは、さながら小説を読みながら、場面を想像しているような感覚にさえなった。

この「N・P」は、登場人物の作者も翻訳者も自ら命を断つなどオカルトちっく、サスペンス的、更に、重いテーマである近親相姦などは、それまでの吉本ばなな作品に取り上げられたテーマを一つの作品に盛り込んだような小説で、何か伏線や回収、或いは、結論めいたものを求めるというより、多くは読者に委ねられている感じがすると同時に、様々なことが盛り込まれたために、読者もやや混乱するんような気もする。

ただ、「キッチン」のようにストーリーがしっかり判る作品は、無声映画よりも、俳優さんが喋って演技する当たり前の手法の方が良いように思うが、この原作が小説「N・P」だからこそ、映画「N・P」の手法が活きたのではないかと思ったりする。

(以下ネタバレ)

僕は、大きなテーマは、近親相姦を通じて愛とは何かを考えることだと思う。

親子で愛し合ったり、異母兄妹とはいえ、兄妹で愛し合うということの重さは、多くの意味で人を追い詰める。

映画「山の焚火」や「三月のライオン」はそうだし、村上春樹さんの「海辺のカフカ」にも、それを伺わせるような場面はあるが、どんな相手であれ、人を愛するというのは、どんなことなのか、思考を巡らすことになる。

「キモい」みたいな簡単な言葉で片付けることが出来ない世界が、そこにはあった。

翻訳者の死は、それを理解せずには翻訳は出来ない、そして、知ろうとすればするほど苦悩せざるを得ないのだという比喩なのだと思う。

この作品を見たからと云って、きっと結論めいたものに辿り着くことは出来ない気がする。

だからこそ、

「もう会うことはないと思うけど、でも、またいつかどこかで」

なのだ。

人間は、愛とは一体何なのか、永遠に考え続けることになるのだ。

本棚を探して、もう一度、原作を読んでみたいと思う。
ワンコ

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