櫻イミト

蛇の穴の櫻イミトのレビュー・感想・評価

蛇の穴(1948年製作の映画)
3.5
「遥かなる我が子」(1946)「女相続人」(1949)でオスカー助演女優賞を受賞したオリヴィア・デ・ハヴィランド全盛期の一作。精神病治療を経験した女性の自伝が原作の実録サスペンス。監督は「追想」(1956)のアナトール・リトヴァク。

新婚の妻ヴァージニア(ハヴィランド)は夫の前で突如錯乱し全ての記憶を失ってしまう。精神病院で主治医キックによる粘り強い治療が続けられるが、病因がなかなかつきとめられない。病状は悪化し重症患者の雑居病室に入るヴァージニア。彼女はそこを”蛇の穴”に例えるのだが。。。

「女相続人」でハヴィランドの演技に興味を持ち本作を鑑賞。

第一カットで主人公の環境と状態をさりげなく伝えてしまう演出と演技が作品の質の高さを予感させる。引き続き治療の経過も興味深く描かれ、主人公の過去を探る心理ミステリーとして充分に楽しめた。しかし、ミステリーとして観てしまうと落としどころが弱く感じてしまう。それを求めるならヒッチコックが精神病院を舞台に描いた「白い恐怖」(1945)のほうが面白い。

本作の主旨は当時一般化されはじめた精神病治療の実際を伝えることにあり、結果、本作の影響でアメリカ各州のメンタルヘルスの法律が改善されたとの事。当時は大きな意義があった作品だとわかるが、現在はさらに医療も進んでいるため、普遍性には少々欠けると思う。

ただし、ハヴィランドの演技力や妄想の映像化はとても優れていて一見の価値がある作品だった。

※1940年代はフロイト学説が広く普及し映画界でも取り入れられた。心理トリックを用いた「ガス燈」(1944)「ローラ殺人事件」(1944)「暗い鏡」(1946)「らせん階段」(1946)等の作品群は”ニューロティック(neurotic神経過敏な)・スリラー”と総称されている。
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