真一

山女の真一のレビュー・感想・評価

山女(2022年製作の映画)
3.4
 江戸時代に起きた「天明の大飢饉」当時の農民を描いた異色の作品。天明の大飢饉と聞いて思い出すのは、日本史の教科書に載っていた絵巻の写真だ。骸骨のように痩せた人々が死人の肉を喰う図を見て、さすがにギョッとしたのを覚えている。本作品の舞台は、飢饉が特に深刻だった岩手地方の寒村。村人たちが、わずかなコメにありつくために村長に従順な態度で接する一方、穢多・非人に等しい身分の主人公一家を差別することで、自尊心をかろうじて維持している様子を、分かりやすく描いている。そして本作品は、こうした封建時代の精神風土を現代日本人が受け継いでいる現実を、私たちに突き付けてくる。

 主人公一家は、先祖が起こした火の不始末のため、今も村人から賤民扱いを受けている貧農家族だ。本作品は、主人公の少女・凛(山田杏奈)が村人の命令に従い、人減らしのために殺された新生児の遺体を川に捨てるシーンから始まる。卑しい身分の賤民に与えられた役務ということらしい。しばらくして凛は、飢餓に苦しみ米を盗んだ父親(永瀬正敏)の罪をかぶるため「私がやった」とウソを言い、追われるように村を出る。行き先は、何人も立ち入りを禁じられている神の山・早池峰山だった。そこで凛は、この世のものとも思えない異形の山男(森山未来)と、不思議な日々を過ごすことになる。

※以下、ネタバレを含みます。

 最も印象に残ったのは、飢饉に苦しむ村人が、神さまの怒りを静めるため、どの少女を生け贄に捧げるべきかを話し合うシーンだ。最初は「村長が自分の孫娘を差し出すべきだ」との声が上がるが、長老から「それはダメだ」と言われると、早々と「平民から差し出すのが当然」というムードに包まれる。そして長老が「誰か、この村のために尽くそうという者はおらんのか」と叫ぶと、その流れは決定的になる。まさに、下への責任の押し付け。森友疑惑を巡る文書改ざん問題や、ビッグモーターの保険金不正請求問題で私たちが目の当たりにした「利権は自分に、罪は部下に」の構図が、天明時代の岩手の農村で繰り広げられていたのだ。

 また、凛たちを蔑むことで溜飲を下げる300年前の村人たちの振る舞いは、低賃金にあえいでいるにもかかわらず、怒りの矛先を政権与党でなく、生活保護受給世帯や外国人労働者、LGBTに向ける現代日本のネトウヨを連想させる。「お上」「目上」「強者」には下手に出るが、相手が「目下」「部下」「女」「弱者」であれば居丈高に振る舞う―。こうした封建主義的風土が今なお脈々と受け継がれているのは、間違いないでしょう。

 本作の難点は、どの出演者も元気モリモリの顔つき、体格をしていた点にあります。山田杏里さんは、まるでグラビアから飛び出してきたような健康少女の姿で登場。永瀬正敏お父さんは、ビールと焼き肉でエネルギーチャージしたばかりのような肉付きでした。どうみても餓死寸前の「天明の大飢饉」ファミリーには見えませんでした(^_^;)
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