Frapenta

aftersun/アフターサンのFrapentaのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.8
この映画を観た直後にまず切なさが先行したのは、おそらく自身のノスタルジー、とりわけその構成要素の一つとしての悲しさが不思議と自分の境遇とリンクしてしまったからだと思う。

僕が幼い頃にビデオカメラをいじっていたこともあり、冒頭のテープがジジーっと鳴るあの音が懐かしすぎて、すぐに自分の中で何かが呼び起こされてしまう映画だと確信した。そういった意味で、本作は僕にとって非常に近くてパーソナルな映画だった。その上で父娘のバカンスを辿っていくと、自分の父親も小学生の時に思っていたよりもひどく複雑な心境にあったのかもしれないと感じてしまうのだ。そんな近くに感じさせるような演出として、呼吸が効果的に使われていた。このレビューを書いている今気づいたのだが、呼吸音は近くにいないと聞くことはない音である。だから、妙な親近感をこの映画に覚えたのだと思う。上で挙げた演出による親近感は涙腺を刺激するし、何より父親が娘に弱いところを見せないのが純粋に泣ける。

大人は子どもの延長線上にいることを大学生である僕はようやくわかるようになってきた。でも子どもは大人のことを完全体のように思っているだろう(僕はそう思っていた)から、子どもの頃はわからないのも無理はない。色々な経験を積み重ねることで「大人」の概念についての解像度が上がっていくのだ。子どもを持つというかつての父と同じ境遇になり「大人」になった娘は、あの日々を再生して、かつての父に思いを重ねる。夜中1人で泣き崩れてしまったり、孤独を感じ壊れかけてしまうシーンがあるのは、成長した娘に同じようなことがあったからだと思う。ビデオに映されない裏の姿は全て娘に起きた話か、それに近い状態に陥ったかだろう。


正直この映画を真に理解するには、僕がビデオカメラを蝉のような音を鳴らしながらいじっていた小学生時代の頃の父親の年代、つまり40代にならないといけない。だとしても、本作のようなあり得るかもしれない裏の父親の姿を想像するのは今の年でも容易かったし、だからこそ僕は切なくなったのだ。
家族についての理解は意外とふわっとしていることが多く、そういった在り方にいる自分に鋭さをもって刺してきた映画だった。今度会ったら歩んできた人生について色々深掘りしたくなった。


以下メモ。

試写会だったのだが、監督のシャーロットウェルズに加え、岸井ゆきのさんがサプライズ登壇。初めて生で見た俳優になった。「ケイコ 目を澄ませて」を観ないと!

Q&Aにて
・鏡やテレビの反射はすごい撮影難しそうだと思ったが、あれはエドワードヤンをはじめとしたアジア映画に影響を受けていて、特に脚本家が気に入ってるそうだ。色合いと土の対流は確かに王家衛のブエノスアイレスに似た雰囲気があった。
・監督自身はシャンタルアケルマンにかなり影響を受けている。生の演出としてシャンタルアケルマンは足音、監督は呼吸を意識していたという。
・「アンダープレッシャー」いい曲。すごいこの映画に合っていた。
Frapenta

Frapenta