Sophie

aftersun/アフターサンのSophieのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.9
この映画を観たとき、不思議な感覚を持った。この映画は娘の視点、父親の視点、その二人それぞれを俯瞰する視点と様々な視点を混ぜ合わせている。そして娘の視点から見る父親はいつも何かを介して移されているように工夫されている。それは父親のことを理解しようとしても理解しきれない娘の心理を描写しているようにも感じる。

二人で過ごす最後の夏休みは、きらきらときらめく美しい思い出のようで、会話の節々にこの親子の関係の複雑さ、やりきれない不条理なものへ抗うまだ若い父親の葛藤が見受けられて、なんとも切ない気持ちにさせられる。11歳少女である娘と離れて暮らす31歳の若い父親との関係はどんな影を少女に落とし得るのだろうと考えるが、そんなことを忘れさせるくらい各シーンには、娘と父親の楽しかった思い出が映し出される。トルコを旅行満喫する2人を観てトルコに行ってみたいと思うほどに。

この映画は多くを語らない。娘と父親の会話、その他の人との会話から断面的に知ることができる情報からあらゆることを観客に推測させる。多くを語らないからこそ、自分の思い出でもないのに人が懐かしい過去を思い出すような感覚を映画を見ることで体感するのだろう。
その時ふと気づく。私たちは大切な人と過ごすときにちゃんと伝えたいことを言葉にして相手に伝えているだろうかと。伝えていることは稀なのではないだろうか。特にバカンスなど旅をしているとき、日頃なかなか会えない人に会って楽しい時間を過ごしているとき、楽しく時間を過ごすことを優先しがちになる。ただ1週間以上に至るバカンスの場合、終盤でだんだんと本音を話し始めることもある。逆に長い旅は日頃言いたくても言えなかったこと悪いタイミングや嫌な言い方で相手に伝えてしまいがちになる。そんな人と人とのよくあるコミュニケーションをリアルに表現しているのが本作であると思う。

また映画らしい映画とも言い難いのが本作ではないだろうか。それくらい不思議なカット割りをしている。芸術的というよりは、ドキュメンタリーのように感じる。

ただ、大切な人とうまくコミュニケーションを取れなかったり、なかなか会えない人がいる人にとっては涙がすっと頬を伝うくらいに胸に何かを突き刺してくるような痛みを感じる作品であると思う。人間関係における痛みをよく知る人ほどこの作品によって心を揺さぶられ、切なくなるのではないだろうか。この映画を観て、あまり理解できないという人がいればそれはある意味幸せなことであるとも思う。人生における人間関係の痛みを知っていればいるほど、この作品への共感度は高くなる。

しかし、現代社会において人間関係の苦しみや痛みを知らない人はほぼいないだろう。よって、それらの苦しみや痛みを持つ人々にとってはこの映画は少し苦しくなるかもしれないが、同時に観た後に少し救われたような気分にもなる。だからこそ多くの人に観てほしい。少しでも苦しみから救われてほしい。
Sophie

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