Shingo

aftersun/アフターサンのShingoのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.8
今後ふとした瞬間に思い出すことになるだろう、心に染み付いて離れない映画だった。

あくまで今の「私」から見た物語ではあるものの、過去の「私」と父親、そして今の「私」の3つの視点から物事を見ることができる。
年齢や精神状態によって見方は分かれそうだが、父親に共感できる人にはかなりしんどい映画になると思う。
愛する人がいるのに誰にも言えない孤独を抱え、突発的にどこかへ行ってしまいかねない危うさが、ウェルズ監督とポール・メスカルによって見事に表現されており(ウェルズ監督は父親のような経験をした孤独な男性だと勘違いするほどだった)、彼の行く末が自分自身の最期のように思えてしまう。
特に最後のダンスシーンからエンディングまでの5分間は、ここ数年で見た映画の中で一、二を争うほど心にグサリと傷を残すラストだった。

私は過去の父親の視点を強烈に意識してしまったが、子供の視点から見た愛や孤独、大人になってから感じる昔の親への想いなど、いろんな見え方が楽しめるし、人によって感じ方が全く異なる映画になるだろうなと思った。

映像や構成も美しい。柔らかいフィルムのような画質はノスタルジックな気分にさせるし、画角やトランジションの方法、秒数にも芸術的なこだわりが見える。

音楽の使い方もとても良い。クイーンのUnder Pressureは、もう2度と映画を見る前のような気持ちでは聴けないだろう。

総じて素晴らしい作品で、これがウェルズ監督の初作品だということに驚く。次作も絶対に見ようと思う。
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