nile

aftersun/アフターサンのnileのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0
大傑作。この映画を観ることが出来たんだから今年はもう何があっても大丈夫。

いつもは離れて暮らす父親と娘が夏のヴァカンスで訪れたトルコ。一見仲睦まじいどこにでもいそうな親子のように見えるが度々父親の表情は陰りを見せる。一体父親の状況は何を示しているのか、11歳の娘はそれを見て何を思っているのかは作中では明かされない。「パパが11歳のとき、将来何をしていると思った?」という質問、父が写ったビデオを見返したとき娘はあの時気づかなかったもう一つの父親の表情を知る。「私が11歳のとき、パパは何を考えていたの?」という質問は単なる好奇心だけで踏み込んでしまって良いものではない。

昼間は快晴のブルーだが、日が暮れるとと同時に沈んだブルーになっていく。激しいライトが点滅する空間で暴れるように踊り、父親が父親ではない何かになるあのシーンや絨毯屋で影に埋もれるように座っているシーンが強烈。
記憶は年月が経てば経つほど色褪せ、その時印象的だったものだけが強く残っていき、本来の記憶とは異なるカラフルなスクラップブックのようになっていくが、カメラはいつまでも当時のままを映す。変化したのはビデオの内容ではなく、成長し当時とは違った受け止め方を出来るようになった鑑賞者の方。娘が父親とはしゃぎ男の子とキスをしていたとき、ビデオカメラを再生するとそこには忘れていた記憶と印象が違って見える父親が写る。記憶するだけでは足りず、記録しなければ見えてこないことがある。記録の中で映し出された人物の表情や挙動、そして思い出す触れた手や背中の感触が物語っていく。
映画は度々決定的な瞬間をカメラで捉えてしまったからこそ映画になってしまったという撮ることの暴力性をテーマにした作品を生み出してきたが、今作はそれとは真逆で決定的な瞬間をカメラで捉えていたからやっと隠されていたものに気付くことが出来たある種のケアの作品と言えると思う。
nile

nile