MidoriK

aftersun/アフターサンのMidoriKのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

終始不穏だった。
多くを語らないままエンドロールが流れたとき、
彼はあのドアの向こうから二度と帰ってこれなかったんだなと気づいて泣いた。


大人になったソフィが記憶を思い起こしている映像(映画)なので、画角や構図が不安定なのかなと思った。妙にズームなのも、父の表情がやけに強調されているのも、ソフィの体格や子供として親を見ているからなのだと思った。

大人のソフィはほんの数シーンしか見えなかったけど、
同性愛者で、子供がいて、そして父と同じ31歳になったのだと推察できる。
つまり(多分)父と同じ状況で当時の彼を見ている。
同時に当時の自分の心情も思い出している。
そして映画を観ている私は、父の苦しさもソフィの気持ちも思い当たる所があって、胸が苦しい。


ソフィの寝息をBGMに踊る父、
お姉さんお兄さんたちに囲まれたりキスや性に触れ始めたソフィ、
様々なシーンで互いの不安定さが出ていた。
ソフィは思春期にあるあるな不安定さだけど、彼のは深刻だった。


11歳の時を悪気なく聞かれた時の彼の顔。
誕生日エピソードを語っている彼の顔。
みんなにサプライズで誕生日を祝ってもらっている時の彼の顔。
本当に残酷そうだった。
闇から抜け出せないのが感じられた。
彼の心に闇を植え付けるような出来事がきっと子供の頃、もしくは誕生日にあったのだろう。
11歳の時に思い描いていた大人の自分を根底から否定されるような出来事があったのかもしれない。
※それの理由としては彼がゲイだったから、はあるかもしれないが、メインの理由にはならない気もする。なりたい自分を否定された事が闇の原因だと感じた。


私たちが想像するように、きっと彼は旅の後、そう遠くないうちに亡くなっているのだと思う。それもよくない方法で。
今思い返すと、自分自身に対する未来への希望を持っていなかった。
あの大きな背中が闇の深さを表しているようで、泣いているシーンは悲しいと同時にぞっとした。

あの絨毯は、きっと「彼の物語」で、
それをソフィが今でも持っていてくれることが救いなのかもしれない。
同時に父をいつも思い出してしまうということにもなるけれど。
大切な思い出であり、彼自身であり、もしかしたらソフィの自分に対する罰なのかも。



なんとなく、ソフィは父が亡くなってから今回初めてビデオを観た気がする。
父と同じ年齢になるまで見るまいと思っていたような気がする。
彼女は彼女なりに、父の何かをあの夏の日々に感じ取っていたんだと思う。

父がいなくなった後、ソフィはどんな気持ちで人生を歩んできたんだろう。
想像するといたたまれない。
アフターサンクリーム、塗っても意味ないよね。

不穏だけど、ソフィに対する愛情は随所に感じられる。
次に観たら、彼が精一杯愛情を示しているのがもっと感じられる気がする。


最後に彼が向かっていったドア、室内の感じ、なんとなく病院に見えて不気味でした。
ソフィは今現在このビデオを観てあの時を思い出しているけれど、
彼は死の間際にやはり思い出していて、でも戻ってこれなかったのかな。
行かないでほしかった。
MidoriK

MidoriK