たにたに

aftersun/アフターサンのたにたにのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
【後から伝わる痛み】2023年50本目

父親の31歳の誕生日。
久々に再開した娘との2人の旅行記を収めたビデオテープが、あの時、幼少期には気づかなかった思い出を映し出す。

当時の父と同じ31歳を迎え、そのテープを1人観ている娘の表情は、懐かしさや楽しかった思い出を見返しているようには見えない。

"あの時、どうしてそんな言葉をかけてしまったのだろう"
"あの時、どうして父の変化に気づいてあげられなかったのだろう"
子供心に仕方のないことではあるものの、大人になってその後悔に苛まれているようにさえ感じる。

そのビデオテープには収められていない彼女の記憶としての映像を混ぜ込みながら、
父の変わった行動や表情を絶妙な違和感として表していきます。

一面だけみれば、娘思いの優しいお父さんである。ダンスしたり、プールに入ったり。

違う側面には、娘にサプライズ誕生日をお祝いされて、歳をとったことに深く失望している父の表情を切り取る。

父は生きることが辛い。
でも、可愛い娘を愛したいから良いお父さんとして振る舞う。

そんな葛藤がビデオテープに映し出される。

夢を持つことが辛い人も世の中にはいる。
生きることが辛いということを、吐き出せない人が世の中にはたくさんいる。

最後の空港での娘のお見送りのシーンと、何もない廊下を抜けて奥のクラブへと消えていく父の背中に、もう彼には届かない娘の思いがヒリヒリと日焼けのように遅れた痛みとして悲しげに伝わってくる。
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