社会のダストダス

aftersun/アフターサンの社会のダストダスのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
5.0

このレビューはネタバレを含みます

小さな心のカメラに残った断片。記録と記憶、想像と願望。

2回観た感想です、普段から観た順番通りにレビューは書いていないけど、公開した週末には観ていたのでだいぶ寝かせました。結局、感想はまとまりません(笑)。一度目は「ふむふむ、オトンの様子がちょっと気になったけどいいバカンスだったなー」で、二度目で「オ、オトンのバカヤロー!!!」と海に向かって叫びたくなりました。

たぶん2023年ベスト出ました。今年はもうここで映画を観るのはやめた方がいいかもしれません、この余韻で半年くらい飯が食えそうな気がします。スコアバーが☆5.0までしか付けられないアプリの不具合が発生しているみたいなので、Filmarksさん早く治してくださいね。

11歳の夏休み、普段は別居している父親カラムとトルコのリゾートを訪れたソフィ、もうすぐ31歳になる父にビデオカメラを向けて問いかける。
「11歳の時、将来何をしていると思ってた?」
20年後にその時の父と同じ年齢になったソフィは、懐かしい映像の中に当時は知らなかった父の一面に気づいていく。

フィルマのあらすじにある大人になったソフィの記憶というのは、断片的な演出のため観る前からそこにあまり引っ張られないほうがいいと思われる。少し前に観た『ジュリア(s)』もあらすじから晩年の回想の話という印象を持ったけど、出てくるのはラストのラストだったし、観る前の先入観でコレじゃ無かったと感じてしまう人もいるかもしれないので。ネタバレフィルターを付けたレビューに書いても意味無いかもしれませんが。

話の流れと雰囲気的にソフィア・コッポラの『Somewhere』に結構近いなと思っていた、パンフレットを読んだら実際影響は受けていたみたい。『Somewhere』が主人公の空虚な日常と娘との充実したひと時をそのまま正直に画面演出として表現していたのに対し、本作は父娘の何気ないやり取りの中に潜んだ刹那のヒリついた感覚が特徴、それが何だったのかを後で察することになる構成が秀逸。高級ホテルとボロ宿という舞台設定の違いもある。

主演はポール・メスカル、『ロスト・ドーター』に出ていたみたいだけど、あまり覚えていないので探してみようかな、そういえばその作品も本作と性質が少し近いか。役の設定より若く見えたが撮影のときは25歳だったようで、親子というよりは年の離れた兄妹に見える場面も多い。もしアカデミー賞より前に本作と『ザ・ホエール』と『生きる』を観ていたら、誰に主演男優賞を受賞してほしいか決められなかった。

娘役のソフィにフランキー・コリオ、本作が初出演にして新たな天使の爆誕、おじさんはメロメロになりました。前述の『Somewhere』のエル・ファニング天使に勝るとも劣らないドッ可愛さで、前世で大女優だったんじゃないかというくらいの演技未経験だとは思えない、画面吸引力を持つ超新星だった。好きです、応援します、つけ回します。

何も情報を入れず真っ白な状態で観ると純粋にバカンスを楽しむ11歳のソフィの気持ちで最後まで観ることが出来て、内容を知った状態で観ると31歳になったソフィの視点で父親の本当の姿を垣間見るという仕掛けは凄いと思った。日焼け跡を表すという『アフターサン』のタイトルの意味を知り成程となった。優しい映画であり残酷な映画。

ビデオテープを見終えた大人のソフィの部屋では赤ん坊の泣き声が聞こえる、その鳴き声をバックにカラムの後ろ姿が扉の向こうに消えていく。もしかしてソフィは自分の子供に父親の名前を付けたのかな。クライマックスで掛かる曲『♬Under Pressure』でもう一度チャンスをいう部分のフレーズが印象に残ったので、父を許してもう一度一緒になったということかと思った。

ポール・メスカルは『グラディエーター』の続編など今後目にする機会が増えそうだし、フランキー・コリオちゃんは天使なまま立派な女優さんになっていただきたい。もう一度観る機会があったら、今度は鏡像のシーンだけ細かく観てみたい。もし年内で更に凄い作品に出会えるなら、今年死んでも悔いが無いかもしれない。