はまたに

aftersun/アフターサンのはまたにのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.2
我が子にしてあげたかったこと、しようとしたこと、しようとしてできなかったこと、わかろうとしたこと、わかってあげられなかったこと。

そうしたこととは別に、一方にとって何気ないやりとりに一方は引っかかっていたり、その軽い返しの裏に違う本心があったように思えたり、何も言葉を交わしていなくてもピッタリと通じあえていたり。

そんな一コマひととき一夏を切り取ったような作品。

思春期に向かおうとするプリティーンの娘(ティーンエイジャーは13歳からだから11歳はプリティーンなのじゃ)と、言うてまだ若い父親の一夏のバカンスを起承転結に依らないロウ(raw)な形で保存してみせた印象。生って言うとニュアンス違う気がするからrawな。

とりとめのない、でも振り返ったときに思い出される「あのとき」の空気感を閉じ込めた作品としては少し前に観た『いつかの君にもわかること』にも通じるところだけど、この作品の2人の未来はこのホームビデオの時点では確定していない。わかっていて見つめる息子の姿と、試行錯誤の先にとらえる娘のそれは少しく性格が違う(年齢も違う)。予感は観賞者である私たちだけの手元にある。

母子家庭だったからかこうした父性や男親の不器用な愛情というものの手触りがわからず、もしくは子がありつつもまだ自分の人生に大きく目が向いている男であったこともないため、「胸の奥深いところを鷲掴みにされた」みたいなことにはならなかったんだけど、あとに残るなにかはあったように思う。そしてこれが、「刺しにくる」系の作品には醸し出せないものがあることはわかる。

だから、あんまり深掘りしないほうがいいのかな、輪郭をぼやかしていたままのほうがいいのかなと思って、繰り返されるナイトクラブのようなシーンが示唆するものについては考えないようにする。考えるのがめんどくさいというのもある。(←)

でもこういう年間ベストとかには入れない作品のほうが10年以上経ったときに「あの年の映画で印象に残ってるのは結局これだなー」とかなりそうな予感はする。 今は気にも留めてないことがこの先ムクムクと頭をもたげてくることもある。まんまと今作をなぞるようなことになったとて、なんにも不思議じゃないのだ。
(あとからどうとでも評価を覆せる完璧なエクスキューズの完成)
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