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aftersun/アフターサンのmegurosのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.5

このレビューはネタバレを含みます

亡くなった父との最後の思い出となったトルコ旅行を振り返ってはいるが、単純な死別を超えるただならぬ切なさが映画の細部に忍ばされている。

多くは語られない/直接的には示されないが、恐らく父は鬱病で、このトルコ旅行の後に自殺をはかったのだろう。手をそもそも骨折していたり、深夜の海に飛び込んだり、ベランダの淵に立ったり、肩を負傷していたり。父として娘の成長をこれからも見守りたい、そのために生きていたいという思いに嘘はないのだが、この自己破壊のサインは強烈な死の衝動によるものだろう。

娘と父は11歳と31歳なので、父が20歳の頃の子供ということになる。ここからさらに憶測の域を出ないが、父が時に娘よりも子供であるように見える瞬間(軽いルールを破る、洋服を畳めない、忍者のような動き)を思えば、また自身が30であることが信じられないといった発言や、11歳の頃の夢が語れないという点を思い返せば、年齢を重ねていくことで求められる社会的な役割の変化に自身の内面が付いていかなかったのではないか。安定した職にもつけず、むしろやりたいことは何一つできず、故郷エディンバラを捨ててからはどこにも所属している感覚がない。子供の頃に思い描いていた自分に慣れていないということもそうだが、親になったことすら受け止められず、それが離婚の原因に、鬱病発症につながったのではないか。

だからといって娘を愛していないわけでは決してない。ただ、自分が親に愛されてこなかった(自分が11歳の頃、誕生日を覚えている人は誰もいなかった)から、自分の思いをどう表現したら良いのか分からないのだ。11歳の娘との2人旅行に老人だらけのホテルはないだろうと思ったが、恐らく自身が経験ないからどうしたら良かったのかそれも分からなかったのだ。

自分が大切に思うことですら何一つ思うようにできない。そう考えると、何も考えずに踊っていたあのクラブに戻っていく(=先に進むことを拒む=自死を選ぶ)という彼の悲壮さがよりくっきり浮かんでくる。

その途方もない悲しさはUnder Pressureの歌詞からも伺えるわけだが、空港でクラブに戻っていく一連のラストの構成の見事さ、美しさはさすがA24のフックアップ力とも言える。父の自殺は監督自身の個人的なテーマ(2015年の短編「Tuesday」も)だが、今後の作品も気になる監督だ。

しかし、娘は本当に良い子で見ているだけで苦しくなった。あのカラオケシーンはあまりに辛すぎて直視できない。
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