なお

aftersun/アフターサンのなおのネタバレレビュー・内容・結末

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

ひさびさにヒューマントラストシネマ有楽町を利用。

既に公開から1カ月経っているのでそこまでお客も多くないだろう…
と思いきや、席を確保しようとWebの予約フォームを開いたらなんと残り2席!
劇場の席数がそこまで多くないということもあるだろうが、これは異常事態。

そんな衝撃と期待感を胸に、劇場へと足を運んだ。

✏️記憶を巻き戻して
最近の若い世代、特にVHSなどおじいちゃんおばあちゃんの家でしか見たことないと言い出しそうなZ世代は、「巻き戻し」という言葉を使ったこともないだろうし、何ならそんな言葉の存在すら知らないだろう。

ビデオカメラなんて、最後に使った、映されたのはもう何年前だろうか。
ホラー映画で「ビデオ映像」を使うと、それは何ともおどろおどろしく筆舌に尽くしがたい「恐怖感」を演出するアイテムとして使われるけれど、本作のような雰囲気を持った作品においてはこの上なく人間の心に潜む「ノスタルジー」をくすぐるアイテムへと変貌を遂げる。

離婚した父と、11歳という思春期真っ只中の娘。
二人は、夏休みの時間を利用して二人きりのバカンスに出かける。
仲睦まじい「ホームビデオ」として見ているだけでも十分。
そんな心地よい時間が流れていく作品。

しかし本作は、そんな一筋縄ではいかない。
本作で主に流れるビデオ映像は、父と同じ「31歳」になった娘・ソフィが、先のバカンスに出かけた際に録画したものを改めて見返しているものである---ということが徐々に明らかになる。

恐らく、ソフィの父・カラムは既にこの世を去っているのだろう。
カラムは精神に疾患を負っているようである、ということは容易に想像がつく。
闇夜の海に入り込んだり、ホテルのバルコニーの柵の上に立ってみたり、怪我をした右腕のギプスを急に外そうとしてみたり…

だがしかし、これらの事実はこの映画を見ている我々だから知りえること。
上に述べたようなカラムの「危うさ」は全て、ソフィには見えていない。
我々が見ている映像と、ソフィがビデオカメラを通して見ている映像は全く違う。これが本作の面白いところ。

急逝だったのか、予兆があってからの死だったのかは本作では語られないが、とにかくソフィは亡き父の姿を収めたビデオ映像を見て、「父の心情」を理解しようとしたのだと思う。

「11歳の時、どんな大人になりたいと思った?」
そうやっておどけた様子で、父にインタビュアーよろしく意見を求めるシーンがあった。

だがしかし、この質問を父はシャットアウト。
優しかった父が、なぜこの質問には答えてくれなかったのか。
31歳となったソフィにはその理由が分かったんじゃないかな。

父の心情を理解しようとビデオ映像を見るソフィだけれど、中には
「(なぜ父がそう思った・言ったのか)よく分からないな」
そう思うシーンも多数あったと思う。

これは当然のことだし、むしろ自然な流れだ。
なぜならこの「アフターサン」という映画は、当時ビデオカメラに収めた映像(=事実)と、ソフィが劇中言っていた「心のカメラ」に収めた映像(=思い出)をすり合わせる作業を追う映画でもあるから。

いくら血のつながった親子といえど、親のことを100%知っている、という子どもはほぼ存在しない、と思う。
例えば「好きな食べ物は何か」とか「好きなアーティストは誰なのか」とか。
たぶんだけど、そういった質問に100%正当に近い回答を持っている人の方が少数派だと思う。

「事実」と「思い出」をすり合わせて「あれはこうだったんじゃないか」「いやそれは違うんじゃないか」と自問自答を繰り返していく。

そのすり合わせの結果、「ヨクワカンネ」でもいいと思うんです。
親と子なんて本当の究極を言えば「赤の他人」ですからね。

☑️まとめ
本作はとにかく「サブテキスト」ハッキリとした言葉として語られない暗喩だったり「想像にお任せします」みたいな表現に満ち溢れた映画。

思春期の娘と、心に一抹の闇を抱えた父が過ごすひと夏。
ちょっとしたエモーショナルな感情と、ちょっとした焦燥感を感じる不思議な時間を堪能できること間違いなし。

余談だけれど、ソフィを演じたフランキー・コリオは何千人規模のオーディションから主役を勝ち取った逸材。

大人っぽさとあどけなさを同居させた顔立ちは実に美しい。
今後の映画界でぜひ活躍してほしい。

<作品スコア>
😂笑 い:★★★☆☆
😲驚 き:★★★★☆
🥲感 動:★★★★☆
📖物 語:★★★★☆
🏃‍♂️テンポ:★★★★☆

🎬2023年鑑賞数:68(32)
※カッコ内は劇場鑑賞数
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