シズヲ

aftersun/アフターサンのシズヲのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.4
リゾート地で過ごす父子の記憶。穏やかで何処か寂しげなノスタルジーと“子供だった頃”の眼差し。そして時を経てから振り返ることで見出されるもの。それらが滲み出る詩情と共に淡々と映し出されていく。言葉以上に行間で物語る演出が愛おしい。

“父と娘”というミニマムな焦点に当てられたカメラワークと、要所要所で描写される手持ちカメラの映像も相まって、まるで過去の思い出を追体験しているかのような味わいに満ちている。ゆったりと流れる一時と、その狭間にちらつく陰と不穏。それでも子供の頃の思い出というものは暖かに紡がれていく。全編に渡って心地の良い時間が描かれ、不思議と映画に没入してしまう。父にも娘にも感情移入してしまう。

思い出の中で徐々に輪郭が浮かび上がる“父親”の実像。娘の母親と離婚していることや言葉を濁して語られる幼少期などの“事情”が序盤から断片的に描かれ、やがて記憶の合間で“子供には見せなかった苦悩の姿”が示唆される。ヨガのような精神統一への没頭、娘には見せない寂しげな後ろ姿や窶れた所作の数々、悪夢的なフラッシュバックの演出など、何らかの心痛あるいは精神疾患が絶えず匂わされる。それでも娘の前で父親はそういった側面を見せず、常に気丈に振る舞っているのが切ない。

そして幼少期の娘はそれをぼんやりと察しつつも掴み切ることは出来ず、“大人≒観客目線”の視座によってその意味を理解することになる。記憶に焼き付く思い出と、振り返ってから初めて噛み締めるもの。この一種の不可逆性が作中の郷愁と絡み合い、独特の余韻を生み出している。要所要所で娘が見つめる性愛の姿も含めて、“子供の目”が捉える“外の世界”の描写がやけに印象深い。若者達との交流など、父子の関係とは別に妙な緊張感も度々挟み込まれる。

過去を振り返る娘と、扉の向こうへと去りゆく父親というラストショット。直前のダンスのシーンも含めて“二人の離別”が示唆され、それ故に哀愁が滲み出ている。見ている最中、そして見終わった後に押し寄せてくる“去りゆく記憶の情緒”に唸らさればかり。
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