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aftersun/アフターサンのらのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
3.7
一見すると久しぶりに会った父親カラムと娘ソフィのひと夏のトルコ旅行の思い出を描いているだけの映画なのだが、行間を豊富に含んだ丁寧な演出や緻密に設計されたショットの断片から次第に繊細な事情があらわになっていく。カラムは明らかに深刻な精神的問題を抱えており、ところどころで自死の念をほのめかすシーンが挿入されている。20年前のその記録映像を、当時の父親と同じ年齢(31歳)になった娘が見返し、記憶をたどり、想像をふくらませるという話になっていて、その構造にこの映画の一番の面白さがあるといえる。父と同じ歳になり、当時の父と共有する境遇(31歳のソフィにはパートナーがおり、子供もいる)が増えたからこそ残酷にも見えてきてしまうものがあるのだ。

少女ソフィは、勘がよく大人びていて賢いため、当時から父親の立場やあらゆる感情を理解し感じ取っていたが、まだまだ無邪気な11歳の子供である。一般的に子供といえば、父や母が"親である"前に、まず"人間である"ということを想像もしないもので、本作はそんな理解と無理解の間に流れる繊細な空気を一貫して写し取っている。シャーロット・ウェルズ監督の実体験をもとにした切実な作品で観ていてつらかったけれど、とても美しい映画だった。
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