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aftersun/アフターサンのシネマノのレビュー・感想・評価

aftersun/アフターサン(2022年製作の映画)
4.0
『映画として最上級の引き算の美学と、忘れられない夏がここにある』

シャーロット・ウェルズ、長編作品の初監督にして、インディー映画のトップへ駆け上がる。

父と娘の関係は、得てして複雑ではない。
それは単純に「単純」であるということではない。
父の仕事や、身体機能の違いという点で、心身ともに一定の距離があり、
幼き日の娘は父を理解する(しようとする)手前で、互いに心地の良い(可もなく不可もない距離とも言える)距離感をつかみ、関係を築けるから。

家族は一つの単位であり、やはり特別だ、けれど家族も違う"個”だ。
そんな家族における特別と個の、紛れもない愛とどうしたって抑えられない葛藤が、トルコの夏を舞台に描かれる。

そう、描かれてはいる。
しかし、そこには心の声も、観客に対して開示される真実もない。
それそのまま、父から観た娘、娘から観た父だけが描かれるのだ。

夏のまばゆくジリジリとした陽射しに、父娘の愛は照らされる。
しかし。
陽が長く照り、このままずっと明るいものと思い願えど…
心の影が拭えぬのと同じように、暗くジットリとした夜は父娘にやってくる。
その昼と夜の交互、忘れ得ぬ夏は、確かに本作に焼き付けられていた。

本作は…
あっと驚く謎が解き明かされる様を描くミステリーではない。
現実では目を背けたい描写や展開を描き、映画で楽しめるサスペンスではない。
悪を成敗するヒーローの活躍を描くアクションではない。
コメディはおろか逆境を乗り越えようとするハートウォーミングなヒューマンドラマではない。
けれど本作は、父娘、父と娘、そして人間と人間がそのまんまに描かれていた。

この映画を観終わったあと
(映画全般に最近、良くも悪くもその流暢があるが…)
すぐにネットでの考察や見ず知らずの他人の解釈をインプットしてしまうのはもったいない。
まずは自分のなかで余韻を味わうのが一興な質を持つ映画だと思う。

そしてその後。
心許せる人たち(一緒に観たならまずはその人)と、本作に描かれずに描かれていたことについて話すと、本作の圧倒的な引き算の美学が浮かび上がってくる気がした。
自分自身、本当にいろいろと想いを巡らせた後、
それでももっともっと多面的な父娘の関係が、本作を一緒に観た人や感想交換した人の見方によって浮かんできて驚いた。

人の心とは、それだけ形がなく。
だからこそ家族でもわからないこともある。

でも

夏の陽射しが暑い…
一緒にいるこの人が可笑しくって、楽しくて幸せ…
自分の心にいつまでも残る大切な"記憶”と"愛”は、どこまでも本物だ。

▼邦題:aftersun/アフターサン
▼原題:aftersun
▼採点:★★★★★★★★☆☆
▼上映時間:101min
▼鑑賞方法:映画館鑑賞
▼鑑賞劇場:ヒューマントラストシネマ有楽町
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