このレビューはネタバレを含みます
とんでもなく素晴らしかった。
近年見た映画でもベストかもしれない。
しばらく放心状態だった。
父親は幼少期のトラウマから長期に渡り鬱であり、常に死と隣り合わせである事を直接的に語らずに表現していく。
成人男性が心の病を訴えるには90年代は早すぎたのだろう。
車に少しだけ轢かれそうになる瞬間。
海に少しだけ潜りすぎる瞬間。
バルコニーから落ちそうなポーズをとる瞬間。
娘にも自分と同じ症状があると感じた瞬間。自分が嫌になり唾を鏡に吐く。
思うようにキャリアを築けず、お金にも困っているのだろう。ホテルは安めの部屋を予約して失敗したのだろう。飲み放題コースは選べなかったのだろう。娘には知られたくなかったが、それももう限界なのだろう。
その一つ一つを今、確認したくてもできない。ポラロイド写真には笑顔の父が写ってる。
見終わった後になぜそんな描写があったのか。ずっと考えていると涙が出た。
ふたりが別れた後、彼の人生はおそらく短くして終わった事を暗示する描写の鋭さ。なんという余韻の残し方。
ゆったりした映画のようでいて、一切人間描写に無駄がない。